第10話

「これからは私が作るとはいえ…これは改善したほうがいいですね」

「だろ?俺もそう思う」


口の中に卵を割るときに入ってであろう殻を食べながらそう言う。じゃりじゃりとしていてとてもまずい。


「そう思うなら改善してください」

「いやだって食えないわけじゃないじゃん」


…。


「以後努力させていただきます」


絶句していると目を合わせずにそう伝えてきた。確実に期待はしないほうがいいのだろう。


「あぁそうだ。そろそろ仕事を再開しようと思ってるんだけど」

「仕事…ですか」


確かに仕事をしなければ生きていかなければいけない。病室もあったので診察はおそらくこの家でやるのだろう。ならば見知らぬ人と会うこともあるのだろうか…。


「なるべくそっちとは合わせないようにするよ」


すこし考える素振りを見せてしまったのだろう。アーテルはそう約束する。


「わかりました。私はどう過ごせばいいですかね?」

「そうだな…。家事を頼もうかな」

「それはここにいる条件でもありますしやりますけど。他には?」

「特にないし自由かな」


自由、と言われてもあまりやりたいことがある訳でもないので困ってしまう。


「うちには本とかが沢山あるからそれでもみて時間を潰してくれ」


困り顔をしているとそうアーテルが提案してくれた。確かに読書は好きだしそのご好意に甘えるとしよう。


それにやっと親以外の理解者に会えたのだ。言われたことはちゃんとして、その上で仲を築いていきたい。


「じゃあよろしくな?」

「アーテルさんもお仕事頑張ってくださいね」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そういやアーテル先生。なんで休みを延期してたんです?確か3日前の午後からは再開するって聞いてたんですけど…。何かあったんですか?」


廊下を掃除していると近くの部屋から会話が聞こえてきた。3日前、それは私がアーテルに助けてもらった日だ。


「あぁ、少しごたごたしてましてね。延長させてもらってました」

「そうなんですか。ならよかったですよ。最近は戦争だったり病気だったり色々物騒ですからね」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「私のために休んでたんですか」


午前中の診察が終わり、昼休憩なのでシルクに作ってもらった昼食を食べてるとシルクはそう問いてきた。


「別に私に構わず再開してもらっても構わなかったのですが…」

「あのなぁ…」


アーテルは少し嘆息する。


「赤の他人を置いとくんだ。ちゃんと説明とか、それこそお前昨日まで熱だしてたんだから責任もって看病しないとだろ?」


「じゃあ…」


シルクはどこか懇願するかのような顔で伝える。


「私をどこかへ置いて行ったりしないですよね?」


シルクにはもう身内がいない。確かに一人なのは寂しいのだろう。


「契約期間内なら、一人にはしないよ」


アーテルは笑ってそう伝える。


「今はそれで我慢してあげます」


シルクは嬉しそうに耳を横へ寝かせて言った。

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