第9話
また、夢を見た。今朝と同じ夢だ。
「お前のせいだ」
「お前が殺したんだ」
何度も違うと叫んでも変わらない。私は置いていかれた側なのに。私は何もしていないのに。いくら泣き叫んでも変わらなかった。
ふと、手が暖かいことに気付いた。暖かく安心感があった。
「お前は悪くない。俺たちは、被害者なんだ」
私は手の暖かさとどこからともなく聞こえた声に安心感を覚えながら、瞼を開き始めた。
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朝食を取り終え、暇をつぶす用の本を選び終えたアーテルはシルクの部屋へと入った。シルクは寝ていた。
「私は…悪くない…」
寝ているシルクの横に椅子を置き、本を読み始めようと思った頃にそんな寝言が聞こえてきた。
私は悪くない、きっと過去のトラウマを夢として見ているのだろう。同じような過去を持っているアーテルだからこそわかった。
アーテルは少し考えてから、シルクの手を握った。自分がそうしてもらった時のように。
「お前は悪くない。俺たちは、被害者なんだ」
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アーテルの母親は東洋の出身だった。母の綺麗な黒髪をアーテルも引き継いだ。
「へんなかみ」
アーテルの同年代の子供はそう言い、アーテルに近付かなかった。子供だけではなく、子供の親たちもそう言い近付かなかった。
それらは時間とともにヒートアップした。遊びに誘っても断られ、飛んできたボールに当たっても謝られず、アーテルは毎晩泣いていた。
その度に母親はアーテルの手を握り、傍にいてくれた。母親も自分と変わらない環境にいるのに。
しかし、母親は病気のせいでなくなってしまった。医学を学んだ今のアーテルから見ても、あれは確実に治る病気だった。
髪の色が違う。たったそれだけの理由で母親は病院に行っても追い返された。そんな母親を看病していた父親も同じ病気で倒れてしまった。
唯一罹らなかったアーテルは、自分のような人に手を差し伸べられるようになりたかった。だから、医学の道を進んだ。
そして今、目の前に自分と同じ不幸な少女がいる。過去の自分がそう願ったように、絶対に助けてあげようと思った。
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「…いたんですか」
「そりゃいろって言われましたから」
夢から覚め、すぐ横にいたアーテルに向かってそう言う。
「私は手を握れとは言ってないんですけどね?」
「それはその…ごめん」
少し意地悪をすると、期待した通りに動揺してくれた。
「いいですよ。今とても気分がいいので」
「そうか、そりゃどうも」
本当に気分がよかった。共感してくれたのは初めてだったから。
「ありがとうございます。アーテルさん」
「さて、なんのことかね」
その後からはあの夢を見なかった。
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