第8話

「お前のせいだ」


まただ。


「お前のせいであの夫婦は死んだんだ」


両親が死んでから毎日見る夢だ。


「お前がみんなと違うから俺たちは死んだんだ」


毎日くたくたになるまで働いていた、優しい人の声。


「あんたがそんな風に生まれてくるから」


毎日家事をテキパキとこなしていた、大好きだった人の声


「お前のせいで」

「あんたのせいで」


違う


「すべてお前のせいで」

「すべてあんたのせいで」


違う、違う。そんなわけがない。


どうしてみんな離れて行ってしまうの。


「お前なんか」

「あんたなんか」


うまれなきゃよかったのに


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おい、おい!」


私を呼びかける声と揺さぶりで、眠りから覚める。


「勝手に入ったのはすまん。…大丈夫か?うなされてたぞ?」

「…大丈夫です。少し…悪い夢を見てただけです」


そう応え、顔を洗うためにベットから多少綺麗にした床へと降りたつ。


「あれ?」


前へ一歩踏み出そうとすると、力が上手く入らなかった。綺麗にしたとはいえまだまだ散らかっている床へと倒れこむ。


「…あっぶねー」


そんなところを察知したアーテルが、落下する背中をキャッチをする。


「…こういう時に危ないから掃除するんですよ?」

「それはごもっともだけど…。お前熱いぞ?熱があるんじゃないか?」


ひんやりとした手が額にあたる冷たくて気持ちよかった。


「やっぱりか…ほら、ベットに戻れ」


「…今日は掃除を…」

「病人にさせられるか。ゆっくり休んで明日やるぞ」


体もだるいので素直に従う。横になると少し楽になった。


「病状はどうだ?頭は痛いか?食欲は?」

「頭が痛くてぼーっとしてて、それから食欲はないです…」

「まぁ風邪だろうな。よし、わかった」


アーテルは話を聞くためにしゃがんでいたが立ち上がり、「水を持ってくるから待ってろ」とだけ伝えると部屋から出ていく。


私はまたもや、といっても少しの間だけ寂しい時間を過ごした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「医者失格だな」


水と汗を拭くためのタオルを用意しながら、そうつぶやく。シルクは元々倒れていたぐらいには弱っていた。なのに一日寝かせただけで回復したのだと思い込んでしまった。そんなのは医者としてあってはならない。


今の自分がやってあげられるのは、医者として看病をしてやるぐらいだろう。水とタオルを用意し終え、シルクが寝ている部屋へ向かう。


ノックをすると「どうぞ」と返事が返ってきたので部屋に入る。シルクの顔は少し沈んでいた。


「ほれ、水と汗拭くためのタオル。水飲んだらそのまま安静にしとけよ」


風邪の時は汗が多く出るのでこまめに水分補給が必要だ。あとは安静にすることで治すことができる。


「他になんか欲しいものはあるか?」


「特には…すみません。ご迷惑をおかけします」


「別にこれを仕事にしようと思ったぐらいだからな。残業みたいなもんだ」


「じゃあそれ相応の報酬がいりますね…ゴホッゴホッ」


言い終わるが否や、シルクはせき込んでしまう。


「すまん無理にしゃべらせた。もう出てくよ」


「…さっき欲しいものないか聞きましたよね」


部屋から出ようとしたときにそう話しかけてくる。


「しばらくここにいてくれませんか?」


「…特にないんじゃなかったのか?」


「そんなこと言いましたかね」


風邪だというのに頭はしっかり回るようだ。これならすぐに治るかもしれない。


「…朝食とか取ってないから、終わったらしばらくはそうしてやるよ」


「ありがとうございます」


俺は今度こそ部屋を出て、その後急いで朝食をとった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「しばらくここにいてくれませんか?」


夢のせいでそんなことを言ってしまった。これでは小説に出てくるヒロインではないか。でも


倒れそうになった時に支えてもらったのは、不覚にもかっこいいと思ってしまった。

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