第7話
「お前が料理できるのはなんとなくわかってたけど…」
夜。必要な器具の場所を一通り教えた後からしばらく。並べられているおよそ自分では作れない料理を見てそう嘆息する。
「俺の人を見る目はいいようだね」
「一人暮らしをしているような人ならできているはずの料理ですがね」
「聞きたくもない言葉が聞こえるくらい俺の耳の調子もいいみたい」
別に今まで料理をまるっきりしたことがないわけではないが、料理は実際下手なので反論もできない。
「バカなこと言ってないで食べましょう。冷めてしまいます」
シルクに促され、テーブルに座り食事を始める。
「…美味しいな」
「ありがとうございます」
「なんも嬉しくなさそうな顔で言われてもなぁ」
この小娘本当に可愛げがない。もう少し喜んだりしてもいいはずだ。
「…なぁ。なんかお前機嫌悪い?」
少し前から、具体的にはシルクがお昼寝から起きたぐらいから感じる違和感について聞く。
「…」
「別に昼寝ぐらい誰だってすると思うけど…」
「それ以上言えばこれから料理はでないと思ってください」
「マジでごめんなさいめっちゃ美味しいんでそれだけはやめてください」
やはりお昼寝の件だったようだ。それはそれとして、目の前の美味しい料理が食べられなくなるのは流石に避けたい。
「…そんなに美味しかったんですか?」
「そりゃもちろん。店が開けるぐらいには」
感想が聞きたかったようなので思ったままに伝える。するとシルクに目を逸らされてしまった。
「こほん。まぁ気分がいいので許してあげましょう。二度はないです」
シルクは少し赤い顔でそう言う。ともかく、これからもこの料理が食べれるのはいいことだろう。1年だけだけど。
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「その…」
夕食を食べ終え、その他のことも色々と済まし、あとは寝るだけという時にシルクが寝室へ入ってきた。
「…ノックはあったとはいえ夜に男の寝室へ来るのはどうかと思うけど」
シルクはハッとして身構える。
「そういうのはちゃんとした手順を踏んだ男女が行うことです!」
「言われんでもわかってるわ!やんねぇよ!」
そこまで言ってようやくシルクは身構えるのをやめる。
「…で?なにの用で来たんだ?」
「その…昼間と夕食の時はすみません」
シルクは目線を合わせず、小さな声でつぶやく。
「アーテルさんも恥ずかしかったかもしれないのに、一方的にぶつけてしまいました」
すみません。ともう一度つぶやく。
「…やっぱお前もちゃんと人間なんだな」
いやさ、と初めて見た時を思い出す。
「なんというか…お前は可愛げがないし態度も冷たいし、なんか本物の猫みたいだなって思ってたんだよ」
彼女は少しシュンとする。彼女特有の耳と、それのせいで起きた悲劇を鑑みればそうだろう。
「でも泣いてたり、昼間みたいに目を輝かせてパンケーキ頼んでたり、感情をそのままぶつけてみたりでちゃんと人間なんだなって思った」
シュンとしていた彼女を表していたかのような伏せられていた耳がピクッと動き、シルクは眼を見開いてこちらを見る。
「だから、感情のままをだしてもいいと思うし可愛げもあっていいと思うぞ?」
「…うるさいです」
苦し紛れから来たであろう罵倒が届く。
言いたいことは言えたのだろう。彼女は部屋から出ようとする。
「明日は、部屋の掃除をしましょう。私だけじゃ無理ですし手伝ってもらいます」
「はいよ」
去り際、シルクはそう伝えてくる。しかし先程のように耳が伏せていなく、むしろ元気にピンッとしていたので、気分は晴れていたのだろう。
関係が悪いまま置いていてもお互いに嫌でしかないし、いい関係を築いていきたいと思いながら、一人になった暗い部屋で夢の中へと落ちた。
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