第5話
「うへぇ…あちぃ…まぶしい…」
「暑さはそうですが日差しはそんなこともないと思いますがね」
「ほんとに可愛げがないな。そこはお世辞でもそうですねって言ってほしいよ」
今は6月の後半、天気は晴れ。ヨーロッパの夏は日差しが強いことで有名だ。しかし、夏になりかけであってまだ夏ではない。別段日差しが強いわけでもないのでこれは引きこもりがゆえだろう。
「暑さに関してはすまんな。フード付きなのがそれしかなかった」
「まぁこれは私が悪いですし…」
日差しが強くないように気温もさほど高くはない。しかしシルクは耳を隠すために患者服の上からフード付きのレインコートを着ている。彼女をトラウマを考えれば仕方ないだろう。
「目的の場所はもうすぐだ。がんばれ」
そう言って歩く。
しばらくして1つの扉の前につく。
カランコロンと心地よい鈴の音が店を響かせる。奥から金髪の落ち着いた印象を持つ女性がでてくる。
「おや、いらっしゃいアーテル先生。また患者服の依頼ですか」
「こんにちはカームさん、いつもお世話になってます。今日は従妹の服を買いに来ました」
「家族がいないのに従妹の服を買いに来るとは不思議なこともあるもんだね」
…。
「まぁいいだろう。服を選んであげるのは好きだからね」
「…助かります」
カームはシルクに近づき顔を覗き込み、フードを取り除く。
「あっ」
待てという前に行動は終わってしまった。
「…これは配慮が足りなかったようだね」
カームはシルクの手で隠されてしまった耳を見てつぶやく。
「いえ、俺が言うのを忘れてしまいました。シルクもすまん」
「…大丈夫です」
シルクは観念して手を下す。
「代わりにここにある一番の服を見繕ってあげよう。アーテル先生の金で」
「一言余計だよ」
――――――――――――――――
「人の店で勝手に寝るとは、先生の図太さには見習うところがあるね」
「…うるさいね」
シルクの服を選ばれている間、椅子に座って待ってようと思っていたがどうやら寝てしまったいたらしい。
「シルクは?」
「あぁそうだ。ほら、出ておいで」
そういうとシルクはおずおずとでてきた。
ボロボロだった服は白シャツに黒いリボンを付けた服と紺色のスカートへと着替えられ、シルクの容姿もあわさりどこかの御令嬢的な印象が強かった。
「流石これを食い物にしてるだけありますね」
「随分と悪い言い草だね。その分も料金をいただこうか」
「すみませんでした」
シルクを横目にそんな軽口を言い合う。
「…似合っているでしょうか」
「うん。似合ってると思うよ」
「これ、デートってやつじゃないですよね。交際なんてした覚えありませんからね」
「安心しろ俺もない」
早口でまくし立てるシルクに答える。
「面白いコンビだね君たち」
それを見てカームは笑っていた。
「でもこれじゃ耳を隠せなくないか?」
「…普通の女の子の服を選ぶ感覚でだった。そうだねもう一着見繕ろう」
そう言ってまたシルクを連れて店の奥に戻る。
――――――――――――――――
そのあと何セット分かの料金を払い、俺たちは店を後にした。ちなみに結構高かった。
「あの…今からでも返して…」
「お前の着る服がなくなっちゃうだろうが。あともう買ってるから」
今シルクが着ているのは後から選ばれた白いフード付きの半袖と黒スカート。1つならともかくいくつもとなると申し訳ないのだろう。
「代わりに大切に着てくれよ?似合ってるし」
「…はい。そうします」
少し嬉しそうなシルクと一緒に昼下がりの太陽の下、家への道のりを歩いた。
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