第3話

「やらかしたぁー」


猫耳の少女が部屋に逃げてから俺はそう嘆いた。つい知り合いと同じような感じでやってしまった。本当にそんなつもりはなかったのだ。


「まぁこんなことしていてもしかないよな…」


まだ彼女の境遇もわかっていないのにこんなことをしていられない。なぜあんなとこにいたのか、なぜそんなに警戒心が高いのか。後者は確実にいじめを受けていたのだろうと想像できる。きっとあの耳が原因だろう。それ以外にも知りたいことは多い。


「それにしても」


俺は独り言ちた。


「見た目が違うだけでいじめられるってのはどこも同じだねぇ」


そう言いながら彼女がいるであろう部屋の前についた。ここで起きた彼女は他の場所は知らないだろう。案の定ドアを開けると彼女がいた。


彼女は慌てた様子で


「かっ勝手に入ってこないでください!」

「ここ一応俺の所有物ね?」


まぁずっと警戒されていたのにも関わらず今回は違ったので進展だと考えよう。拒絶だけど。


「…関節キスした程度で調子に乗らないでください」

「乗ってないからね?マジでただの事故だからね?全然謝れるよ?」

「…別に事故なら謝らなくていいです」


彼女はシュン…としながら伝えた。これ俺が悪いんですかねぇ?


暫しの静寂。すっごい気まずい。


「…なんの用できたんですか」

「え?あぁ…」


少し考えてしまう。


「…言いたくなければ言わなくていいんだが」


もしかしたらまだ乾燥していない傷口をベタベタと触るような発言かもしれない。彼女の座るベットの横に置いていたイスに座る。


「お前はなんであそこにいた?親は?…その耳は?」

「…」


彼女は耳を思い出したかのように隠し、黙ってしまった。すこし矢継ぎ早に言ってしまったかもしれない。


少しすると観念したかのように耳を隠した手をおろし、喋り始めた。


「…両親は…病気で死にました…」

「そうか、すまん嫌なことを聞いたな。続けてくれ」


予想はしていたが、悪いことを聞いてしまった。


「この耳は…なんですかね。私が魔女である証なんですかね」


彼女は自嘲気味にそう言った。


「魔女?」

「村の人が言うには両親を殺した、猫の耳が付いた魔女なんだそうです」


だから逃げてきたんです。と、またもや自嘲気味に続ける。


「あなたはどうです?」


彼女はこちらを見て、まだ少しあどけなさの残る顔で微笑んだ。その顔は天使かと見間違えるほど可愛らしかった。しかし、


「あなたもそう思いますか?」


その目は両親に置いてかれってしまった子供のようだった。


俺は彼女と出会ったばかりで、ほとんど彼女のことを知らない。だけどこれだけは言える。


「俺の前にいるのは、心に傷を負って泣いている少女だ」


これだけは断言できる。なぜなら彼女のことを何も知らないからだ。いい部分も汚い部分も何も知らない、俺だから言えること。


彼女は眼を見開いていた。その目は少し、潤んでいた。


「…後ろを向いてください」


彼女の言葉に従う。その後聞こえたのは嗚咽だった。


「よく頑張ったな」


名前すらも知らない彼女にそう伝えた。

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