第1話

食材を買い出しに行って帰る時だった。


急に雨が降り出してしまい、急いで帰っているときにその娘はいた。倒れていたその娘のフードの付いた服はボロボロで靴も履いていなく、銀髪の髪はぼさぼさ、肌も汚れてしまっていた。見える手足はすごく華奢で、医者として少し心配になった。


医者として助けるべきだと考えて近づき、そして気付いた。猫のような耳が生えていたのだ。


信じられず触ってみると、そこにはしっかりとした感触があって、夢ではないことがわかった。


しつこく触りすぎたのだろうか、耳を動かして拒否の意を示してきた。そこでハッとした。そうだこんなことしている場合じゃない。


取り合えず反応があったということは生きているのだろう。急いで担ぎ、自分の病院まで走って向かった。


「そうだろうなとは思ってたけど軽いな…」


向かう途中にそう独り言ちた。





――――――――――――――――

ゴソゴソという音で私は起きた。


落ちてくる瞼を擦りながら見えたのは知らない天井、知らない部屋、私が何故かいる知らないベット、当たりに散らばるゴミ、そして…湯気の出る器とスプーンを持った黒髪の男性…。


「うん、やっぱ患者が起きるから掃除はするべきだな」


できないからこうなってるんだけどなと苦笑しながら呑気に黒髪の男は言った。


目の前で起こる光景が何も理解できなかった。取り敢えず逃げるべきだと私は考えた。もうあんな目に合わないように。


その為にベットから逃げようとして…腕の力が抜けてシーツの上にボフンと転がった。


「病人はおとなしくしような」


黒髪の男は優しく苦笑しながらそう言い、私のほうに近付き近くにあった椅子へ座った。


「どうだ、食欲はあるか?」


そういう黒髪の男の姿が昔風邪をひいたときに看病してくれた父と重なってしまった。それで安心してしまったのかお腹から音が鳴った。


「あるみたいだな。ほれ、これを食べな」


黒髪の男はそう言いながらおかゆをすくったスプーンを口元に近付けてきた。


もしかしたら毒が入ってるかもしれないと思い私は頑なに口を開こうとしなかった。


すると男はスプーンを戻し、…今度は自分の口元に運んだ。


「この通り毒はないぞ」


あまりにも警戒しすぎたせいか、伝わってしまったらしい。


また私の方へとスプーンを戻し、それでも警戒する私へ今度は無理やり食べさせてきた。


美味しくはなかった。


母の作ってくれたおかゆのほうがもっと美味しかった。


それでも


「じ…」

「じ?」

「自分で…食べれます…」


なぜだかわからないが、食べたいと思った。食欲からではない、何かのせいで。


「おう。じゃあそうしてくれ」


黒髪の男はそう言い残し、部屋を出て行き、残されたのは私と温かいおかゆだけだった。いつも通りには動かない腕を動かし、自分の口元へとスプーンを動かした。やはり美味しくなかった。


「う…うぁ…」


涙が出てきた。久々に人の温かさを感じた気がした。私はおかゆを食べながら嗚咽を漏らした。


彼女は不幸だった。しかし、そんな彼女が幸せにならないとは誰も言ってはいない。

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