四話 -帰郷-
久しぶりに故郷に帰ってきた。ぼくの故郷はニンゲンの世界のどこかの森にある洞窟の、ずーっと地下の深くにある。ぼくたちは定期的に元の姿に戻らなければストレスで倒れてしまう。
緑色の鉱石が暗い地下の全体を照らしている。ニンゲンの街と比べて自然を野放しにしている感じで、広さはあの街とそこまで変わらない。
今回ぼくが戻ってきたのは、計画の進捗についての報告会や会議が開かれるからだ。
「しばらくだったねえダンくん。そうでもないか。街の記録お疲れ様。これから提出だろう?」
よくぼくの面倒を見てくれた方だ。今回の仕事にもぼくを推薦してくれた。
「会議はほとんど上の方々の話を聞くだけになると思うけど、一応聞いておいてくれよ」
そして報告会、これからの会議が始まった。
「以上が、ダンくんの記録した現在の琵琶湖の様子です」
みんなの感心する声が響く。
「では、幼いながらもこのような偉大な仕事をしてくれたダンくんに、今一度拍手を」
その瞬間みんなが拍手をしてくれた。すごくうれしい。
「続きまして、計画の実行日時について」
この話題に切り替わった途端、空気が張り詰めたように変わった。
「みんなも知っているように、琵琶湖とは我々の先祖、だいだらぼっち様がお創りした窪に龍神様が水を与えてできた、偉大な湖です。その湖によって周囲は発展し、人々は営みを続けてきた。しかし数百年前、完全に水が枯れ、この辺りの主導権を巡ってニンゲン同士で争いが起きたのは記憶に新しいことです。現在はみなも聞いたように、勝利したニンゲンが、我々も認めるほどの開拓を行った」
話が退屈になってきて、ツムグからもらってきたコーヒー豆の入った袋を開けて覗く。
「それはなんだい」
隣の方が聞いてきてつい袋を閉めた。
「なにも」
コーヒーのことは……ぼくだけの特別なものにしておきたかった。他のみんなが知りえない、ぼくだけの秘密。
会議は続く。
「しかしやはり歴史が、湖が人々の営みを常に見守ってきたことを証明しているために、やはり琵琶湖は復活させなければならない。誰のものでない自然なものである姿こそが真の姿。龍神様もそれを容認しています。ここで先日頂いた龍神様のお言伝を」
みんながざわめく。
「龍神様のお力の完全な復活の目途がたったそうです。復活しだい、すぐに琵琶湖をよみがえらせると。予定は〇十年後の〇月になるそうです」
さらにざわめきが起こる。実際ぼくも驚いた。もっと遠いことの話だと思っていたから。それまでに何度ツムグのコーヒーを飲む機会があるだろうか。
「龍神様は今回のダンくんの活躍を耳にして非常に喜んでおられます。そこですばらしい決定をなされました。今ある都市の掃除に、ダンくんを指名したいと」
とても大きな歓声が響いた。周りのみんなもやったな! と肩を叩いた。
それよりもぼくは気になることがあった。
掃除、というのは、どういうことだろう。
いやな予感がした。
掃除、というのは、ごみを集めて捨てるということだ。
街を掃除。街を綺麗にするのだろうか。
でもそれはニンゲンの感覚だったことを思い出す。
ぼくらの言う掃除は、
踏みつぶすことなんだ。
ということは。
……あの店も?
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