二話 -ぼくとツムグ-
「いらっしゃいダンくん、また来たね」
結局今日もまた来てしまった。この街に来るたびに立ち寄るようになってしまった。その日はいつも通りの営業時間で、ちらほらと他のニンゲンも座っているのが見える。彼らに飲み物を作ってあげているのは、ツムグのお母さんだ。普段は彼女が店を開いているらしい。
この店はツムグのお母さんのお母さんのお母さん、もしかしするとさらにもっと前かもしれないが、とにかくそれくらい遠い昔からやっているそうだった。この辺りでは愛用しているニンゲンも多く、古き良き地元のお店として人気を博しているらしかった。
「あ! ダンくん! また飲みに来たのね!」
奥のほうから元気な声を出しながら女の子が顔を出す。するとぼくの手を引っ張って、いつものカウンター席に座らせた。
「今日もまたグレードアップしたからね、待っててよー」
女の子は最初にあったころと比べてそこそこ高くなった気がする。髪も肩にぎりぎり届かないくらいの長さに伸びていた。会ってからそんなに時間は経っていないはずなんだけど。
ふと、壁のほうにある写真に目が行った。池の写真だろうか。全体的に黄色くなっているから、多分すごく昔のものかもしれない。
「はいお待ちどうさま……ん? 何? あ、これ? 私が飾ったんだー」
「これは、昔の池の写真?」
「うん。ずーっとずーっと昔。私もお母さんもおばあちゃんも生まれてくるよりずーっと昔の写真」
「もしかして、この辺りの?」
差し出されたコーヒーを熱さに気をつけながら啜る。うん、グレードアップしたって言っていたけれど、いつもどおりの「味」だった。
「そう。今じゃ考えられないけど、大昔ここは国の中で一番大きな湖だったんだって」
「どうしてこの写真を飾ってるの?」
「んーなんでだろうなー。ノスタルジーっていうか。昔の世界ってロマンない?」
その感覚はぼくにはよくわからないけれど、ニンゲンには特有のものなのかもしれない。
「実際に見てみたい?」
「見てみたいなー」
ツムグは頬杖をつきながら写真を眺める。
……横顔を見ていると、なんだか顔も大人になってきている気がした。
「もし見れるよって言ったらどうする?」
ツムグは目線をぼくに向けると、ふふんと笑う。
「まっさかー」
悪戯っぽいその笑い方は変わらないままだった。
「というかダンくんって普段なに食べてるの? 初めて会ったときから全然背伸びてないじゃん」
「君が早く成長しすぎているだけだよ」
「うっそだあ! 他の男子はみんなこれくらいだよ?」
ツムグは片手を挙げて高さを表現する。
ぼくはその様子を眺めながら、またコーヒーを口に含んだ。
そしてまた明日もここに来ようと考えていた。
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