第4話 梨の剪定(その1)なぜ剪定するのか

 梨農家は、今が一番きつくて忙しい。寒くても剪定作業をしなければならないからだ。


□ なぜ、こんな寒い時期に剪定するの?


 落葉樹の仲間である梨は、冬の間は木が眠っている。新芽が伸びる前のこの時期に剪定(せんてい)をすると、その後の成長に影響がなくて、一番いいからだ。


 葉っぱが落ちるのが11月だから、12月から2月までの間に梨の剪定をする。

3月になって、桜と一緒に梨の花も咲く。それより前に梨の剪定を終わらないといけない。2月は、タイムリミットが迫っている時期なので、とっても忙しい。


□ なぜ、梨を棚のように育てるの?


 梨の木は、ほうっておけば、とても高い木になるそうだ。

 梯子を使って、高い木を登って作業するのは、とっても大変だ。


 それで、日本人が考えたのが棚づくりという育て方だ。これは、日本独自の作り方のようだ。

 棚を作って、そこに枝をのばすようにして、棚の下から作業をすればいいので、とても楽になる。

 そのために、棚に沿ってそだつように曲げたり切ったりすることが大事なわけで、剪定の基本になると思う。


 これを初めて考えた人は、本当にすごい人だと思う。江戸時代には、もう棚づくりをしていたようだし。


 ただ、外国では棚づくりはしていないようだ。手先が器用でマメな日本人にこそ向いている仕立て方なんだ思う。


 まじで、日本人はすごい。


 ところで、実験によると、棚づくりをすると、日光を受けやすくなり、良く育つという効果もあるそうだ。それこそ、狭い日本に合っている育て方というべきだとも思う。


□ そもそも剪定するのはなぜ?


 枝が多すぎると、全部の枝に日光が当たらなくなるので、いらない枝は間引いてやる必要がある。


 病気や害虫で枯れた枝も切り落とす必要がある。


 実をつけた枝からは、真上に枝が何本も伸びてしまっているので、それを全部切り落とす必要もある。


 ここまでは、簡単な剪定だけど、次の剪定がすごく難しい。


 梨の枝は、数年実をつけると、花芽(はなめ)(花をつける実になる芽)が枯れてなくなって坊主のようになってしまう。それで、その実がつかない古い枝を元から切る必要がある。


 でも、切り落とした後に、新芽が芽吹いて、新しい実のなる枝が出てくるという保証はない。


 だから怖くて最初のうちは、ついつい、切り落とせない。


 そうすると、肥料ばかり食べて実がならず、ジャングルみたいに育った梨の木になってしまうというのだ。


 ただ、大事なのは、切り落とすと、木が刺激を受けて(生存意識?)新しい枝が芽生えて来る可能性があるということだ。


 新しい枝には力があって、うまく出てくれば、ぐんぐん養分を吸い上げて、木も元気になるから、美味しい実がなる梨になる。


 そういうわけで、どこを、どんな角度で、どこまで切れば、美味しい実のなる木になるのかという予測をした剪定が大事なわけで……。その絶妙なバランスによって剪定できるというのが、熟練の技というべきものになんだなあ……。


まだまだ初心者の私は、「えい やあ!」という掛け声で、とりあえず切り落として、その後の成長を観察しながら、経験則で毎年勉強している。


□ どうやって棚に枝を広げるの?


 梨の木を放っておくと、芽が出たところから枝がまっすぐ上に伸びてしまう。もともとある植物の性質だし、梨は特に高く育ちたい性質があるから、とにかくまっすぐ上に芽が伸びていく。


 ただ、困ったことに、上に向いて育った枝には、実がつかないという性質があるので、実をつけるためには、枝を水平にしなくてはならない。

 そこで、冬の剪定と一緒に、夏に伸びた枝を、水平にまげて紐でしばらなくてはならない。


 太い枝がのびる方向や角度も重要で、これも紐でしばってひっぱる必要がある。


 これは、詳しく言うと誘引(ゆういん)(しばること)という作業になる。


 筋力と、手先の器用さが必要だ。


□ 梨の剪定とはつまり


 この、剪定と誘引をひっくるめて、一般的に梨の剪定という。


 晴れて、風のない日が続いてくれることを、梨農家としては、つくづく願っている。




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