私、彼、私、私、私。

春香

盲目

「ねえ、ほんとに可愛い」


こんな素敵な言葉を、彼は私にかけ続けてくれる。

横を歩いているときも、ご飯を食べているときも、ベットの上でも。

まだ付き合ってはいない。

でも、お互いが想いあっている。

両想いに違いない。

そう、信じてる。


彼は元カノと1年半付き合っていたらしい。

私が元カノのことを聞きたがると彼は嫌がる。


「いや、あんまり言いたくないし、聞きたくないでしょ?」

「ううん、知りたい」

「いやぁ…でも…」

「お願い」


私は毎回不機嫌になる。

私から聞いたくせに。

聞いたら嫌な気持ちになるって分かってるのに。

やっぱり気になっちゃう。


「ねえ、ごめんね…」


私が不機嫌になるたびに彼は優しい顔で謝ってくる。

優しく頭も撫でてくれる。

そんな優しい彼に私は抜け出せなくなっていた。


彼は本当に優しい。本当に。

私のためにできるだけ異性絡みは減らしてくれているらしい。

だけど、私が男友達と遊ぶことは快く受け入れてくれる。


「そっか…うん、楽しんでおいでっ」


優しい顔で、笑顔で送り出してくれる。

帰りは迎えにだって来てくれる。

だから私も、楽しく毎日を送れる。


ベッドで愛し合う時も、私だけを見てくれる。

頭を撫でながら抱きしめてくれる。


「本当に可愛い、愛してる。本当に」


大きな体で、汗ばみながら、息切れしながら。

でもやっぱり、どこか物足りないというか。

寂しいというか。


キスだってたくさんしてくれる。

私の目を見つめながら、私に愛を伝えながら。


「えぇ、そんななら早く付き合っちゃいなよぉ」


友達にはいつもそういわれる。


「いやぁ、でもやっぱり告白されたいじゃん?」


私は待っている。

彼からの告白を。

確かに、彼のことは大好きだし、付き合いたいとも…。

ずっと待っている。


彼は、欲しいといったものはたくさん買ってくれる。

リップだって。

財布だって。

バックでさえも。

私の為だったら、少し高くても嫌な顔一切せずに買ってくれる。


「本当にありがとうっ!!」

「どういたしましてっ」


私がいっぱいの笑顔を向けると、彼も笑顔で頭を撫でてくれる。

こんな優しい人と一緒にいれて私は最高に幸せだ。


「ねえ、この人ほんとにかっこよくない!?」


私が推しの話をしても彼が嫌がることはない。


「ほんとだっ、かっこいいねっ」

「そうでしょそうでしょっ!!」


友達が彼氏の愚痴をよく言ってくるが、私は彼に対して何の愚痴も出てこない。

彼は私に何でも買ってくれるから。

彼は私を不安にさせないから。

彼が私にいちばん優しくしてくれるから。

彼は私をたくさん愛してくれるから。


「ねぇ」


2人きりになった途端、彼が突然そういった。


「え、どうしたの?」


「ねぇ…いつになったら……」


私はスマホを見ながら彼の言葉を待つ。



「いつになったら僕のことを見てくれるの…?」



突然の彼の言葉にびっくりして彼の顔をみる。



彼は泣いていた。



私は何が何だかわからなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私、彼、私、私、私。 春香 @haruka023

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る