死んでも嫌いな君へ

@aimiyuki1216

第1話


朝は一杯のお湯を飲み、準備体操をする。

しっかり噛んで朝食を食べ、天気予報をみて、会社にむかう

もし具合が悪かったら無理せずちゃんと休む

そんな僕の姿を見て彼女は 


「おじいちゃんみたいに健康に気を使うね」


「ぐっ、そ、そうかな

でもおじいちゃんになってから気使っても遅いんだよ」


「まぁそれはそうだよね

いままで蓄積されてってるものがくるわけで

今更体に優しくしても

DV旦那が後日大丈夫?て撫でてくるようなもんだもんね」


そりゃ体もブチギレて色々な腫瘍つくったりするだろうな。


「……そういえば、そろそろ2月だけど、また行くの?趣味の悪い墓参り」


「うん、行くよ」


「タケくんも悪い子だよねぇ、好きな人とか身内ならともかく嫌いな子の墓参りいって

言うことといえばざまあみろだもんね」


「いいストレス解消になるんだ、これが」


食器を洗い、そう気軽につぶやく。



別にこの話は、僕と彼女のほのぼのとした日々とかではないし、なんなら僕はそっちのほうがみたいくらいだけど、そうじゃなく


僕の大嫌いなとある男の話だ。








机が蹴られ、とりまきのクラスの女子が笑っていた。


「なんか言い返せよ」


「……うっざ」


「は?聞こえねー!」


その男、深田直樹は、中学生にして金髪で制服もまとも着られないサルのような知能の男で、酒もタバコも女も好き勝手やっていた。

橋から飛び降りたり、それを配信したりめちゃくちゃな男だった

しかしクラスでは顔がいいから、体育ができるからというだけで一番人気で、親世代もそこには態度がいいのか

挨拶がハキハキしてて良い子ねえ扱いだった

僕は日々ふざけんなと思っていた。

毎日死ねと思ったし、なんなら呪いもした



でも僕が一番死んでほしかったのは

僕自身だった。



「……死にたい、つらい」



台所でみる包丁がやたらとキラキラしてみえる

もはや今となってはなにをそんなに落ち込んでたのか思い出せないくらい些細な悩みだったのだが

学生の頃の僕はとにかく毎日が窮屈で

それが人生の全てで。

だから読書か自殺行為くらいでしか、現実逃避ができなかったのだ。


ナイフをみたり、崖から下をながめてみたり

わざと台風の日に川をながめたり

色々したけど僕は臆病なので、実際に切らないわ、崖から身を乗り出さないわ、とっとと家に帰るわと自殺行為と呼べる代物ではないことしかできなかった。


毎日見る自殺者の数に

へぇ、よく勇気出して踏み切ったな

羨ましさすら感じていた。


けれど


その、自殺者の数の中に深田直樹が加わったその日

僕はふざけんなと思った。



ざわつく教室


「やだーっなんで直樹くんが?!」


「帰ってきて!」


「信じたくない」



どうせ女トラブルで刺されたんじゃないだろうか自殺よりずっとありえる

でも、どうやら噂を聞くに、だれとも会った形跡はなく、室内で首をつって死んだらしい。



なにがむかつくって、それのせいで

いつも僕の話を


「可哀想に、直樹君に椅子蹴られたんですって?なんてひどいことするのかしら

いつでも保健室にきて休んで、気持ち整理してね

私は味方よ」


とかいって僕に優しくしてくれてた保健の先生まで



「直樹くん……可哀想に……


直樹くんにされたこと?そんなこと今更蒸し返さなくても……

なにも死ぬことなかったのに……よくある男の子の悪ふざけだったわよ……」


これだ。

僕に味方してたんではない

より弱いものに味方していたんだ

いま、圧倒的に弱いのは自殺した直樹だ

小心者の僕には勝てない




イライラがおさまらなくなり、僕ははじめて授業をさぼって屋上に来ていた。


風が冷たい、そしてフェンスの向こう、下に広がる景色はやはり怖く

足からぞわぞわと寒気が這い上がる。

この恐怖をのりこえて実行にうつす


許せない、僕はそんなとこまで負けたのか。


そう思っていると


「お、お前も死ぬの?」


そんな、人を小馬鹿にした声が聞こえた



しかしそれは聞こえるはずのない

低い声


振り向くと、立っていた。


ふてぶてしい、着崩した制服姿の男が。


「なんだ、生きてたのか」


「あー?なに?!ぶつぶつ聞こえねーな」


「生きてたのか、死ねばよかったのにって言ったんだ!」


「ざんねーんもう死んでまーす

幽霊だよ幽霊、お前陰キャだから霊感あったんじゃねぇの

見えてんのお前だけだぜ」


「は?!」


陰キャイコール霊感あるというのはむかつくが、それはさておき

たしかに生きてるというのはおかしかった

大人まで生死を間違えて発表するわけないし

もう葬式まですまされたようだし

屋上まで僕にわざわざ会いに来るわけもない。

友達でもライバルでもなく、接点のない陽キャと陰キャでしかなかったのだから。


だから、ただただ

偶然僕に見えてしまった

だけ


「ふざけんなよ……」


そんなの嬉しくもなんともない。


「で?質問にこたえろよお前死ぬの?

いつもなんか死にたい感じだしてたよな

とっとと踏みだせよ死にたいならよ〜」

 

「うるさい!お前とは違うんだ!大体お前なんで死んだんだよ、いつもいい想いばっかして幸せもので、死ぬ理由なんもねーだろ!悩みもないだろ脳みそスカスカなくせに!」


すると途端、はじめてみせる顔を直樹はした。

しかし発せられた言葉は

認識を改められるようなものではなく

クズそのものだった。


「悩み?ねーよ

うじうじすんの嫌いだもん俺

俺はな、元々決めてたんだよ

義務教育の終わりに死ぬってね」


「……は?」


「俺ん家金なくて高校とか大学いけねーし

だから決めてた

人生が詰むその日までに好き勝手やって

短い人生とじるってな


だからだよ、酒もタバコもできたのは

こんなはやくにやって人生100年とか考えてたら30になる頃にはぶっ倒れてるっつーの


俺みたいなタイプが一番幸せなのは今だけだぜ

責任もなんもねぇ、若くて、なにもかもがキラキラしてる

けど一歩外でてみ、頭が悪い、金が無い、人としての道徳もない

そんなんで働けるの犯罪者でも働ける日雇いくらいだろ、俺は上から指示されるのが嫌いだからそれも無理で自業自得のホームレスかもな


そんなんで、生きていけるわけがないだろ」


「……なんでそんな意外と冷静に分析してんだよ

自虐と無縁だったくせに」


「自虐じゃねーからな

事実をいってる

俺とお前はさ、うさぎとかめの話みたいなもんだよ

俺様はすごい、なんでもできる!なんでももってる!

でも

結局最後に社会に出て勝つのってコツコツやってきたお前側なんだよな


そんなうさぎが負けずに自分すげー!てまま終わるにはどうすればいい?


寝たまま起きなきゃいい


そのまま死ねばいいんだよ

だから俺は自殺へ踏み出したんだ

それよりも未来へ踏み出す方が怖かったからな

けどおかげで俺短い人生サイッコーだった!

対して、なに?お前って本当クソだな

短い割に……ククッ、遊びもせず……」


「うるさい!死んでまで馬鹿にすんな!」



怒りがわいてくる

なにか、なにか一つくらいこいつの思い通りにならないことが起きてほしい


ほんとなんなんだよ、身勝手なやつだな

親は、彼女は、それに納得したのかよ?

ちゃんと未来見据えて頑張ってる人がいる中で

暴れまくってとっとと死ぬとか

クソじゃねぇか……


やっぱ自殺なんて勇気ある行動じゃない

もう羨ましくもなんともない!


ただただ腹が立つんだ


だから、僕は



「深田直樹!!僕は100歳まで生きるぞ

そんでもってお前のそのクソみてーに暴れて閉じた短い人生よりずっっと充実して、大人になって長生きして

最期にお前の生き方より百倍よかったて言ってやる!」


「ッは……」



直樹はひくひくと口をつりあげ笑った



「……上等だよ」 





そんな宣言のあと、直樹は消えていて

僕は結局夢だったんじゃないのか、いやでもあんな嫌な奴の夢みるとか嫌すぎるわ現実ってことにしとこう、とおもい




まず、自殺行為をやめた。




「おばちゃん、おはようございます!」


「あら元気……おはよう!」


ちゃんと挨拶するようにして、周囲を見て生きた


色々なとこに行って

四季でかわる景色をながめ

色々な人と知り合って

人間性を深め

大人になってからはじめてなにか食べられるようになったり、できるようになったり


どんどん、世界が広がって。






ばしゃ、と勢いよく墓に水をかける。


おいてある花は……僕が以前置いたものだ

どうやらもう僕しか墓参りにきていないらしい。


直樹の親からは勝手に親友に勘違いされていて笑ってしまった


まさか、大嫌いだったし、いまも嫌いだよ


けれど僕が自殺せずここにいる

不思議な縁があるこいつを、なんか忘れられないってだけさ

どうしても否定してやりたくてさ

奴の生き方を


だって、そうだろ?


更生して、もっと生きりゃよかったのに。






「僕は今幸せだぞ!ざまあみろ!」




なあ


聞いてるか?直樹。







end

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