第6話 ミナミとタナカ、トーコとエリック

 「この柄ワンピで見つけてね~」

 ミナミから送られてきた画像のおかげで、あっさりと会うことができた。


 あ。そういう感じか。


 タナカであるエリックと、ミナミであるトーコは顔を合わせた瞬間、同じことを思った。トーコはミナミモードの上ずった声で聞いた。

 「あの、いきなりですいません。こちらへは【剪定】のお仕事で?」

 「ええ、お察しの通りです」


 やっぱり。タナカは運営の人だったんだ。

 サクラの【剪定】、解雇したり枝の伸ばし具合を整えにたまに現れる。外国人モデルの容姿をしているので、おそらく雇われであり「本体ではない」というのがサクラちゃん情報だ。

 

 この人が、ミナミか。

 ミナミ、セイラ、ホクト。アカウント3名分のサクラをうまく回して、誰とも会わないのに人気があると。まさかタナカの僕が運営と察して、初めて会う気になったのか?だとしたらカンの良いことで。

 【剪定】の仕事は、明らかに「売り」と化したサクラの排除や、その他、会員情報から「よろしくない枝」を確認に行く作業だ。

 サクラはサクラによる推薦があり、電話とメールでの選考の後に決まる。容姿は問わない。

 ミナミは登録から2か月で、全く別人の3名になりきり、評判が良かった。セイラちゃんに会いたい、ホクトさんって実在しますよね?などと基本的にはタブーのリクエストが嘘のように山のように、届いた。

 ミナミって人は、最近つぶれたナイトクラブかサロンの関係者だろうか。   

 【Yashi】の類似サイトがスパイ的にひっかきまわして、後でごっそり会員を引っ張る気か。

 一応、知らなくてはいけないので【剪定】に入った。


 「本名は言わなくてもいいです。ミナミさんでいいですか」

 すると、相手は胸元にエアバッグを入れたみたいに大きく息を吸い込んでから「ふう」と吐き出し口を開いた。声のトーンをいくつか下げて。

 「トーコです。東の子どもでトーコ。セイラは西、ホクトは北で、わかりやすいかと。東西南北そろいましたね」

 笑ってもいないが怒ってもいない、緊張の色さえ浮かべていない。


 トーコの整った顔立ちはエリックを安心させた。

 トーコの方でも、自分を見ても頬を赤らめたりあからさまにカッコつけたりしない異性は楽だった。


 「エリックです、トーコさん。注文しましょうか」

 「エリックさん。じゃ、エビとマンゴーの揚げ春巻きと…」


 ふたりは、いま食べている物の話だけをしながら食べた。

 トーコは、驚くほどよく食べた。つられて、エリックはビールをよく飲んだ。

   

 目の前の女性が食事に熱心なので、酔いも回ってかエリックは観察を始めた。

 白地に紺と紫の大きな花柄、深いVネックのワンピース。

 身長は160センチちょっとで低いヒールを履いている。初対面の男性に威圧感を与えない計算だとしたら、効果的だ。

 わずかにグリーンを帯びた目は大きく、長いまつげに縁どられている。ほとんど自然のままで形よく生えた眉毛は少女らしくもあり、頭髪のブラウンよりも地毛の色素が薄いことを示していた。

   

 さて【剪定】の時は、大体、こうだ。

 「私、なんかまずいことしましたか?」

 とおずおずと聞き、直後には

 「え、すごいイケメンですね」

 と乗り出してくるサクラが9割。

 何も指摘してないのに「ごめんなさい、辞めますから」が1割だ。

 トーコはどちらでもなく、ご出身はどちら(どこのハーフか知りたい)、ジャカルタのどのへんですか(ほんとにジャカルタ住みか知りたい)、とかテンプレ質問を一切、してこない。


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