第3話 東から南へ

「やっぱりKLに行けるみたいなんだよね。良かったらごちそうさせて」

 ジャカルタの駐在員、タナカからだった。


 トーコであるミナミは、いやミナミであるトーコは、考えた。

 東南アジア住み出会い系サイト、【Yashi】の運営に「サクラ」的に雇われている身としては、実際に相手と会った場合は追加報酬が出る。生活に困っているサクラちゃんたちが、どんどん「出会っちゃってる」のは知っている。

 特にタイから来る奴らはえげつないとか、ミャンマーから来る人がイケメン韓国駐在員連れてくるの最高、とかサクラちゃん情報もあなどれない。

 トーコはタナカと会うことにした。

 生活がパターン化して飽きていたし、飽きるとすぐに違う国に行きたくなるクセを抑えたかった。KLは住みやすくて、家がある分、経済的にも離れない方がいいのは知っている。


 東からー、南へー

 PCを立ち上げながら、棒読みの独り言でミナミを召喚する。


「そしたら リエンで!ランチだと駐妻グループと会いそうなんでディナーだとうれしいな」

 リッツカールトンにあるリエン(麗苑)は、確かに駐妻に人気で、在馬の日本人お気に入りの中華料理店である。

 この店、駐在員だと嫌がるかと思ったが、意外にもすぐ日時を知らせる返事があった。

 実際に誰かに会うのは初めてだ。一瞬だけ自分の緊張を感じて、嬉しい。別にタナカはときめく相手ではないが、そうそう、この緊張感が欲しかったのだと思い出す。

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