第13話 優しい心臓の音
「一体何故、片瀬さんが泊まりに来ているの。お兄ちゃん」
「.....それを俺に聞かれて分かると思うか?全く分からん」
「.....ふーん。お兄ちゃんの事だから何かたらし込んだかもね」
「そんな根性もあると思うか。俺に」
「.....まあ無い.....ねぇ」
そんなにはっきり言われると傷付くな。
俺は汗をかきながら自室で義妹の対応に追われていた。
義妹はジト目で俺を見ている。
今片瀬さんはお風呂に入っている.....しかし片瀬さんが.....風呂。
俺はボッと赤面する。
「まあとにかく。お兄ちゃんにそんな根性無いとは思うけど余計な真似はしない事」
「私的なものが混ざってないか?」
「.....私的なもの?混ざっているに決まっているでしょ」
「混ざっているのか!?」
「当たり前でしょ。.....私はお兄ちゃんが好き。.....だからこそだよ」
そんな感じで会話をする俺達。
それから四葉は少しだけ複雑な顔をした。
俺はその姿を見ながら溜息を吐く。
そして四葉の頭に手を添える。
そうしてから、大丈夫だと思う。.....片瀬さんに限ってそんな事も無いだろうし、と答える。
「片瀬さんは.....俺的に見て大丈夫だと思う」
「それはお兄ちゃん的に、でしょ。.....当てにならないな」
「酷い.....」
「まあでも.....片瀬さんだからね」
それから笑みを浮かべる四葉。
俺はその姿を見ながらホッとする。
自律神経が乱れていた。
危ない所だったな.....うん。
そう思いながら.....四葉を見る。
するとドアが開いた。
「先輩。四葉さん。入りました。お湯有難う御座いました」
「ああ.....気にしないで」
「.....そうだね」
そして俺たちは話をこの地点で切ってから。
夕食の準備に取り掛かる。
意外な事は.....何と片瀬さんは料理が本当に上手な様で。
むしろ.....四葉より上手かもしれない。
まあでも口が裂けてもそんな事言わないけど。
☆
「先輩。お部屋見せて下さい」
「見ても良いが楽しい事は何も無いけど.....」
「良いんです。.....先輩だから」
「.....まあそれなら良いけど.....」
2階に上がりながらそんな会話をする。
というか本来の目的を忘れてないか?
俺は思いながら片瀬さんを見る。
片瀬さんは、本来の目的なら覚えています、と笑顔を見せる。
先輩は覚悟を決めましたか?、と言ってくる。
俺は首を振った。
「覚悟は決まらないな。.....俺はそんな根性無いから.....」
「先輩。入りましょう。部活。絶対に楽しいですって」
「.....どうしてそんなに俺を.....」
「当たり前じゃ無いですか。先輩だから、ですよ」
「.....」
何でこの子達はみんな俺を好きになるのだろうか。
そんなに.....動画に威力があったのだろうか。
すると片瀬さんは俺の部屋を見ながら、先輩。何で俺なんかを好きになるんだろう、って思ってますよね?、と見透かした様に聞いてくる。
俺はドキリとしながら片瀬さんに青ざめる。
「.....先輩。貴方の動画は確かに再生回数も全然ダメです」
「.....は、はっきり言うね.....」
「ですが先輩。.....私思うんです。.....動画は再生回数じゃ無いって。どれだけ人に影響を与えるか、ですよ」
「.....それは.....つまり.....」
俺は!と思いながら俺の部屋を開ける。
そして遊園地に入る様に中に入る片瀬さん。
うわ.....やっぱりあの部屋ですね、と言いながら笑顔になる。
俺は少しだけ赤面した。
それから、変わってない?、と聞いてみる。
「寧ろあの部屋のままで嬉しいです」
「.....そうか」
「はい。.....先輩。.....で。私は.....結局は貴方の動画と貴方に全て救われたんです。これは事実ですよ」
「.....!」
すると片瀬さんは後ろに回す様に腰に手を添えながら笑みを浮かべる。
そしてそのまま歩いてきた。
それから俺を抱きしめてくる.....え!?
俺はボッと赤面する。
そうしてから片瀬さんを見る。
「か、片瀬さん!?」
「.....先輩の優しい心臓の音がします」
「いやまあそれは生きているから!」
「これだけでも私は生きていて良かったな、って思います」
「.....片瀬さん.....」
「先輩。.....私ですね。優しく無いんです。.....移植心臓なんです」
「.....へ?」
移植.....心臓?
脳死した.....とある女性からの移植です。
と言いながら俺を見上げてくる片瀬さん。
11歳の時に心臓を移植しました、と言いながら笑顔で.....え?
俺は目を丸くしながら片瀬さんを見る。
片瀬さんは、私は心臓のポンプ機能が、血液循環が上手くいかずに.....死ぬ寸前でした。だから.....その時から人生をエンジョイしたいなって思ったんです、と片瀬さんは離れる。
「.....それは.....本当に?」
「はい。.....私は本当に死に掛けていました。死ぬ寸前だったんです。.....そしてその狭間で心臓を移植されたのですが.....生きる意味とは何かのピースが嵌らずに分かりませんでした」
「生きる意味.....」
「.....それで私.....そんな時に貴方の動画に出会ったんです」
「.....!」
初めは貴方の動画はつまらないって思っていました。
でも私.....真剣に見始めてから貴方を応援したくなりました。
それで私はようやく生きる価値のピースが成り立ったんです、とまた笑顔を見せる。
俺は目を見開いた。
そして片瀬さんは俺のベッドにそのまま腰掛ける。
「私はこの先も生きよう。そして.....この大切な人に生きて出会う。そんな思いを抱きました」
「.....片瀬さん.....」
「動画サイトを閉じたのは理由があるでしょう。.....でも私はその事は多少の理由でも本気で悲しかったです」
「.....」
悲しげな顔をする片瀬さん。
そんな理由が.....あったのか、と思う。
そして片瀬さんを見る。
片瀬さんは、だから今を生きるのをエンジョイして動画を創りたいなって思った。今、私が映像部に居るのは大幅な理由がそれです、と答える。
窓から外を見ながら。
「だから好きな人が横に居て欲しいです」
「.....」
『好きな人が横に居て欲しい』
正直、舐めていた。
部活を本当に舐めていた。
やる価値も無い、だろうと。
でもそうやって魂に火を点けてやって居る人も居るんだな。
そう思えた気がした。
俺は.....どうしたら良いだろうか。
そんな事を思いながら俺は片瀬さんと同じ様に窓から外を見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます