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最初から探していた物はまだ見つかっていない。葉菜子の感動的な話や人見の説教に気を取られて、市籠を刺したという人物はまだ明らかになってはいない。
「ああ、そうそう。先ほど逮捕したと連絡が。太央家のメイド長だそうですよ。旦那さんを狙って侵入したけれど部屋を間違えて、刃物を持っているのを見られてしまったから咄嗟に、だそうです」
冷汗が噴き出た繁昌は額についていた離婚届を落として真っ青な顔を晒した。
とんでもない間違いだが、それがなければ自分が刺殺されていたんだ。死体のような顔になるのも無理はない。ただ、家を出る前に今日の夕飯のメニューを伝えるような口調で言うようなものじゃないと思う。無事逮捕できたのはよかったが、もともと狙われていたのが別人だったという事実を合わせても「ああよかった」なんて喜べることではない。
何て後味が悪い事件なんだろうか。
いや、事件なのだから後味がいいものなんて存在しないのか。
「凶器も無事見つかりました。解決してよかったですね。では私たちはこれで失礼します」
よくそのテンションで言えたものだ、メンタルが強靭すぎる。鷹尾の心は鋼でできているんだと思う。
恨みを込めた深いため息をついた人見が、机の上に置いていた足を下ろして席を立つ。
人見にとっては本当にいい迷惑だ。楽しみにしていたシチューはお預けで番組も録画予約をされたとはいえそれもお預け状態。豪華な夕食と朝食を用意されたが、好みの乳製品は鷹尾が持ち込んだ牛乳とかろうじて出してもらったロイヤルミルクティーだけだ。約一リットルは毎日摂取しているであろう人見にとってはガス欠状態。そんな中嫌いな推理をしろしろ言われ続けたら悪態もつきたくなる。
ただ大人げないしやりすぎではあるけれど。
ぼんやりしていた一実を顎で「早く来い」と言いつけて人見は部屋を出た。これ以上残る必要はない。それならさっさとお暇しようじゃないか。
めちゃくちゃにかき乱した張本人はもうとっくにいなくなっているわけだし。
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