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見過ごせない不可解な点を挙げた本人が発言を繰り返した方が適切。
そこまで理解できたとしても、議長席に座りたいかはまた別の話だ。
恨めしそうな顔で鷹尾を睨みつけ、ひげを拭うついでに舌打ちしたのを一実はしっかり見ていたし、聞いていた。
その気持ちはわからないでもないが、せっかくなら散々な言われようだった昨日の印象をひっくり返してほしい。
深い深いため息をこれ見よがしとついて、人見は口を開く。
「昨日の発言には虚偽がある」
要点を簡潔にまとめた言葉に室内がざわついた。
「虚偽? どういうことですか?」
「嘘をついているということです」
「それはわかってます! 一体誰がと聞いているんです」
「奥さんは話を聞いていて疑問に思うことが一つもなかったんですか」
人見の言い方に波留子は言葉を詰まらせて俯いた。それは昨日の記憶をたどっているのか、それとも湧いた怒りで言葉が出てこないのか。先陣を斬った波留子があっさりと敗れ、早くもボスである喜多彦が人見と対峙することとなった。焦りか体に余すところなくびっしりとこびりついた脂肪のせいか、額にたっぷり浮かんだ汗を拭いながら光の消えた目で人見を見下す。
「いい加減なことを言うな。刑事に連れて来られただけの部外者のくせに、何をわかったようなことを」
「そういう旦那さんは何かわかっているのですか?」
「……!」
言葉でねじ伏せるというのはこのことである。
人見が口達者であるということは前からわかっていたことではあったけれど、ただ相手の気力をベキベキにへし折るほど長文で圧があればいいってものじゃない。短くても適切な場所で適切な言葉をさらりと言う、ただそれだけで、人はこうも簡単に黙りこくってしまうものなのかと、一実は心の底から感心した。
「人に疑問を投げかける前に少しは考えたらどうなんですか。全人類共通で脳みそはつまっているでしょう。脂肪がまとわりついていようとネズミほど小さかろうと、考える能力は失われてはいないはず。せっかく与えられた物を使わないのはとてももったいない。わからないことがあるとすぐ人に聞くのは悪い行動です。言葉がわからない年齢の幼児がするならまだしも、あなたがたは文字が読めて自分で調べることもできる。なら自分で考えてあらゆる手を使って思索するべきだ。苦労を一切しないで仕入れた物はその価値がわからず、無くしたとしても痛くもかゆくもない。その代わりに身についてもいない。苦労をしてください。人はどんなかたちであろうと、自分で行動しない限り成長につながらない」
部屋がシン……と静まり返った。誰も口を開きすらしない。ここまで徹底的に言われてしまっては言葉を発することすらできないだろう。もしできるとしたら猛者だ。
それか空気が読めないお調子者かもしれない。
一実はこの家に来て今が一番居心地悪いと感じた。
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