1-33
朝日を受ける背中に続いて食堂に入ると、海外の映画に出てくるような縦長のテーブルと背もたれが異様に長い椅子が一実たちを迎えた。
部屋の中には誰も居なく、どうやら他の家族はまだらしい。
案内された席に座り、料理が運ばれてくるのを待った。皿の周りに置かれたナイフとフォーク、朝食だというのにこの完璧な形式に少し肩に力が入る。
一実の昨日の朝食なんてバナナ一本だ。鷹尾に呼び出されて慌ててたせいもあるが、時間に余裕がある休日でもここまで用意したりしない。
焼きたてのパンがテーブルの上に揃ったころ壽松木家が現れ、数分遅れて太央家がやって来て朝食が始まった。
野菜が溶けるほど煮込まれたスープから始まり、色鮮やかなサラダ、チーズが濃厚なエッグベネディクト、デザートはたっぷりのバターで焼かれたフレンチトーストとバニラアイスだった。
夕飯もそうだったが食事の量が多い気がする。
作る側からしたら足りないと言われるよりは少し残されるぐらいが見栄えがいいのはわからなくもない。けれど食事を残される悲しさも一実は知っているわけで、何とか目の前に出された料理だけでも胃に収めようと奮闘するが、やはり寝起きの体には少し厳しい。紅茶をちびちび飲みながらウエストの絞りがゴムであった事に感謝した。
「朝食が済んだことですし、昨日の話の続きをしましょうか」
腹も心も満たされ朗らかな空気が流れていた部屋の中、鷹尾のその一言で瞬時に凍りつく。
満足そうに顔をつやつやテカらせていた喜多彦は目の光が消え、繁昌はあからさまに眉を寄せた。
確かに昨日応接間にいたメンバーは全員そろってはいるが、決してベストなタイミングとは言えない。
しかし、刑事という立場の鷹尾に歯向かうものは居なく、不満を持ちつつも仕方なく付き合うという姿勢をそれぞれ取った。
「人見が気になることがあるとのことで」
話を切り出した本人があろうことか、場が整った段階でこの空気の悪さと共に全てを丸投げした。まさか名指しされると思ってなかった人見は、もうおなじみになりつつある牛乳ひげをくっきりとつけてぽかんと口を開けている。
昨日の夕飯の話をするのであれば疑問を上げた人見が適任だ。あの場にいたのは鷹尾と一実だけで、録音もしてなければ記録も残していない。
そりゃそうだ。あの梅の間には夕食を食べに行ったのだから。
もしこの時間に必ず推理をすると知っていたなら、何かしら人見の言葉を残せる物を用意しただろうけど、独り言のように流れる推理を目の当たりにしたのは一実は初めてだった。そのため手元にはメモすら残っていない。ならば話を聞いただけの第三者より、見過ごせない不可解な点を挙げた本人が発言を繰り返した方が適切。
そこまで理解できたとしても、議長席に座りたいかはまた別の話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます