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 演奏隊がクラシックを奏で始めた。


 追悼式で生演奏されるのはお経と木魚だけだと思っていたのに。ここまできたらもう追悼式ではない。本当にただのパーティだ。


 退場する壽松木家と入れ替わるように料理が運ばれてきた。


 伊勢海老が丸ごと乗っているチャーハンに金目鯛のお造り、キャビアのパスタや厚切りステーキなど、高級食材をふんだんに使いながら和食洋食中華の全てを網羅している。もちろん金粉が乗ったケーキやゼリーなどのデザートも。


 見たことがない料理を前にして興味がわかないわけがない。


 毎月決められた金額内でやりくりすることにすっかり慣れた一実だが、予算を気にせず食材を買って好き勝手料理したい時だってある。よく試食を進められる少し高級なお肉や、脂がたっぷりのった旬の魚など手が届くのであればもうとっくに伸ばしている。けれどその前には予算という大きな壁があり、毎回そこで引き返しているんだ。


 そんな日常を過ごしてきた一実の目の前に今、高級料理が並んでいる。


 好奇心というものは非常に厄介で、一度気になってしまったら最後、そのことで頭がいっぱいになってしまう。


 その時の一実は決して空腹だったわけではない。急いではいたものの、朝食といえるものは食べてきた。移動や着替えなどそれなりに動いたが食事をとってからそう時間は経っていない。がっつり食事とまではいかなくとも、ほんの少し、軽食程度なら胃に空きはある。


 オレンジジュ―スを飲み干した一実はグラスを机に置いた。スッと顔を上げ、料理が並ぶ方に振り返る。一歩、足を踏み出そうとしたその瞬間、前に下りて来た腕に行く手をふさがれた。


「あ、ごめんね」


 鷹尾だ。


 果肉一つ残っていないグラスを二つ置く。体を動かすタイミングがかぶってしまっただけで、一実の邪魔をしようなんてこれっぽっちも思っていないだろう。けれどその何気ない行動が一実の思考を変えさせた。


 一実は料理に対する興味より、鷹尾からの印象を守る方を優先した。


 時々首をひねりたくなるような言動をする鷹尾だが、ドレスコードを守ったりこのパーティがおかしいと思うような常識は兼ね備えている。ならば今この場で一実が料理を取りに行きでもしたら確実に「おかしな子」という目で見られることになるだろう。


 おそらく、一生。


 高級食材を使った料理なんて恐らくもう二度とお目にかかれないかもしれない。けれど、ここに来た目的はご飯を食べに来たわけではない。


 きっとそう。


 何も言われずに連れて来られたが、絶対違うと自信を持って言える。

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