1-11
大きな門を通り過ぎるとレンガと金網のアーチが続く小さな庭のような小道が三人を迎えた。
今はただの金属だが、時期になればきっと綺麗な花が咲くいて来訪者を迎えるんだろう。
人間の身長よりもはるかに大きい扉が開いて男性が出てきて鷹尾たちを見つけると深々とお辞儀をする。
ワックスで撫でつけた白髪交じりの頭を見るに初老を少し過ぎたぐらいかと思うが、すらっとした体形にぴったり合った燕尾服が様になって老いを感じさせない。
「お待ちしておりました」
招き入れるように開かれた玄関扉の裏に、もう一人燕尾服を着た男性が立っていた。表で迎えた人に少し似ているが歳ははるかに若い。恐らく息子だろう。
「お荷物をお預かりいたします」
「お願いします」
鷹尾はボストンバッグと紙袋を。人見はスーツケースを渡した。
「先生やけに荷物多くないですか? 何を持って来たんですか」
「必要最低限の荷物だが?」
一実は自分の荷物を見下ろした。
さほど大きくないトートバッグの中には下着と化粧品類、あとは財布、携帯などの貴重品しか入っていない。見比べれば人見の荷物が多いのは明確だ。これは人見の言う必要最低限がおかしいのか、一実の必要最低限がおかしいのか。不安に似たもやもやを抱えながら、一実も荷物を預けた。
室内に踏み入れた三人は大理石の上を歩く。塵一つなく掃除の行き届いた床は鏡のように反射し、壁には誰が見ても作者が言えるほど有名な絵画がずらりと飾られている。
「すごい……」
「初めて盗みに入った泥棒か。貧乏人丸出しだぞ恥ずかしい」
そんなことを言った直後に人見は数ある絵画の中で一つの絵に駆け寄っていた。
「モネの庭園の女たちですか……これは素晴らしい。晴れた空と生き生きと生い茂る緑に映える白。ドレスや花にも使われているのにどれも潰れておらずぼやけることもなく、どれも美しく描かれている」
恥ずかしいのはどっちだ。
一実は色々な角度で舐めるように絵を見る人見を急いで壁から引きはがす。
「どうぞこちらへ」
目の前で大の大人が奇行を働いているのに一ミリも動揺しないのはさすが長年執事をやってるだけあるんだろう。けれど一実からしたらうろたえてもいいから絵から引きはがすのを手伝ってほしかった。
二人の執事の案内に続き、銅像のように固まって動くことを拒む人見を懸命に引きずる。男女の力の差があるというのに人見はいつまでたっても歩こうとしない。これを軽々移動させていたデパートの店員は何者だ。ふくよかに見えたあの体系は実は脂肪ではなく力士のように全て筋肉だったという真実が隠されていたんだろうか。
壁で絵が見えなくなったことでやっと人見は自分の足で歩き始めた。どんなに眺めても説明も自慢も始まらないからただ見ていたかっただけなのか。そういうのは個人で美術館に行ってやってほしい。
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