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「断る!」
ダンッ! と机を叩く音が部屋に響いた。
驚いてあいさつのために開いた一実の口からヒョッと間抜けな声が出る。心臓をバクバクさせながら事務所内を見渡すと、ああなるほど、と納得した。
「おつかれさまです~」
なるべく邪魔をしないように小さな声で言ったが、事務所内にいた二人、スーツを着た紳士が一実に顔を向けた。
紳士と言って一番に思いつくのはきっと英国紳士だろう。
色とりどりのスーツを着こなしてさっそうと歩くその姿。けれど実際の英国紳士というのは映画に出てくるようなカラフルなスーツを着ておらず、そのほとんどが黒や灰色と言った落ち着いたスーツを身にまとってることが多い。
となれば言葉を変えなければならない。
ロココ調のソファーにどっかりと座り、タレ目をキッと吊り上げた人物はいうなればイタリアの紳士だ。
スカイブルーにストライプ模様が入ったスーツに薄い水色のワイシャツとオレンジがかった黄色のネクタイを締めている。
見た目をかっちり固めたその男は一実を目視して「ん」と息が漏れたかのような微かな声を発し、何もなかったかのように目をそらした。
とてもひどい対応だと思うが、このイタリア紳士もどきが人見探偵事務所の所長で唯一の探偵で、一実の雇用主でもある人見吏志だ。
ついこの間三十歳になったばかりなのに、一人前に事務所を持ち、それなりに依頼をこなしている。
それなりに依頼が来れば、だけれども。
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