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「ごめん!」
晴れ渡った空の下、植えられた緑が風でさわやかに揺れる中庭にその声が響いた。
あまりの声の大きさに、遠くのベンチで昼食をとっていた講師が驚いてカップ麺を盛大にぶちまけた。せっかくの昼食を無駄にして申し訳ないとは思うが、その言葉を向けられた当の本人は耳鳴りを起こしていて「ごめんなさい」と言うところではない。
精神的にもそれどころではない。
「俺!
同じ声量でとどめを刺すかのように断りの言葉を二度口にした男子大学生は、そそくさと去っていく。
この瞬間、
そこまで言わなくても……。
振り返りもしないで逃げるような足さばきをする相手を見ながら一実は思う。
ビューラーで限界まで上げたまつげをマスカラで整え、さらにはラメをちりばめて完璧に仕上げた目元からほろりと涙がこぼれたタイミングで、後ろからケラケラと笑い声が聞こえた。
悲しみに浸っていた一実はもしやと顔をしかめて振り返る。思った通り、友人の双葉が体を丸めながら笑い転げていた。
人がフラれるところをわざわざ見に来たなんて悪趣味だ。
一実がむすっとした顔で睨んでいると、目が合った瞬間、双葉はさっと立ち上がり服に着いた葉っぱや草を払ってシャンプーのCMのごとく長い髪をはためかせた。
「おめでとう失恋十九回目」
決め台詞のように、にっこり輝くような笑顔でそう言った。
可愛い顔で何てことを言うんだ。出来たばかりの傷めがけて助走をつけて塩を塗りこみに来ている。いやむしろそれ以上だ。唐辛子を詰め込んで丸ごとキムチにする気かもしれない。
けれど事実。悔しいけどどう頑張っても消せない、まぎれもない事実だ。
成人式を去年に済ませていたからいいものの、来年に控えた身だったなら年齢=失恋回数になって今日が記念すべき日になっていたところだ。
いや記念しなくていい。
パーティーもケーキもいらない。
何もなくていい。
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