第15話 最悪な一日
「ほい、これ昨日言ってた本…」
「ありがとう」
彼は律儀に私のクラスに来てくれた。昨日の約束をちゃんと守って本を持ってきてくれた。好き。
「じゃあ…また」
「バイバイ」
彼は自分の教室に帰って行ってしまった。まだ、朝のHR開始までは時間がある。どうせならもっと話していたかった。
今日は嫌な日だ。少し体調が悪い。朝のニュース番組の運勢ランキングでも最下位の12位だった。ラッキーアイテムは本。彼のおかげで少し気分も良くなった。好き。
体調が悪いと言っても、軽い頭痛がするだけなので大して問題はない。授業も普段通り受けて昼休みになった。
「ルナ~次、体育だって」
「え?」
そうだ…忘れていた、昨日の帰りに教師が言っていた。体育教師の出張の都合で体育の授業が今日に変更になったのだ。いつもならこんなミスしないが体調不良のためか忘れ物をしてしまった。
「…忘れた」
「何が?」
「体操服」
「え?マジ~どうすんの?私が他のクラスの子から借りてこようか?」
「……自分で借りてくる」
「ありがとう…放課後に返すね」
「ああ」
彼はあっさりとジャージを貸してくれた。思わず抱き着いてしまった。彼のにおいを嗅いでいると頭の痛みも弱まっていく気がした。
「なんかあった?」
「なんで?」
「いや…なんか機嫌よくなってるから」
「そんなに機嫌悪かった?」
いつも通りに過ごしていると思っていたが、他の人から見たら機嫌が悪いように見えたようだ。
「もう、目つきとかすごかったよ~」
「言ってよ」
「ゴメンゴメン…ていうか、それ誰の?」
「…彼氏」
「ヴぇ?ルナ…彼氏いんの?」
飲み物を飲んでいた友達は吹き出しそうになるくらい驚いていた。私に彼氏がいることがそんなに予想外なのか…
「ん~彼氏予定の人かな」
「何それ?」
友達は怪訝な顔をしていたが気にしない。そんなことより彼のジャージに顔を押し付けてにおいを嗅ぐ。とても落ち着く…好き。
「うわっ…キモッ」
「部活の見学期間は来週までだからね。覚えておいてね」
担任の女性教員は生徒にそういって教室を出ていった。
「ルナ~週末さ。ここ行かない?」
「何このお店?」
友達はとあるサイトを開いたスマホの画面を見せてくる。そこには落ち着いた外観の店の写真があった。韓国発祥、インスタ映え間違いなしとかそんなことが書いてある。
「最近、開店したお店でさ~電車で4駅くらいのところにあるんだけど~」
「いいよ」
「やった~、じゃあ今日の夜また連絡するね」
「うん」
教室にはガヤガヤと話し声が聞こえてくる。真の教室に向かうため荷物を持って、席から立ち上がろうとすると…
「あ…あの…血原…」
「ん?」
そこには見知らぬ顔の男子生徒がいた。誰だろう…おそらく同じクラスの生徒だとは思うがその顔に見覚えがない。
「えっと…誰だっけ?」
「え?あぁ…同じクラスなんだけど…俺、
「う~ん」
やはり知らない名前だ。そもそも真以外の男子には興味がないのでクラスの男子の名前すらほとんど覚えていない。
「ちょっと話、いいか?」
「ごめん…用事があるから…」
「すぐ終わるから…頼む」
その男は割としつこく呼びつけてくる。再び機嫌が悪くなってきた気がする。こめかみのあたりがヒリついてくる。
いつもならすぐに真のクラスに行って彼と話している時間なのに他の男にそんな時間を奪われているため、怒りが湧いてくる。あぁ…最悪な一日だ。
「あっ…うん、すぐ終わるなら」
「じゃあ、ちょっとついてきて」
「血原……、俺と付き合ってください」
人がほとんど来ない西階段の踊り場で彼は私に告白をしてきた。少しばかり声が上ずっている。
「え?いきなり言われても…私、あなたのこと何も知らないし…」
「じゃ…じゃあ、とりあえず付き合ってから…お互いの事…」
訳の分からないことをほざいている。頭に十分脳みそが詰まっていないのか、それとも腐っているのか。
「いやいや…とりあえずとか意味わからないし、私あなたに興味ないし…」
苛立ちが極限に達してしまい、口が少し悪くなってしまう。こんな何の役にも立たないことで真との時間が奪われていくのは耐え難い苦痛に他ならない。
「いきなり何も知らない人から告白されるのがどれだけ気持ち悪いことか、ちゃんと理解するまで私の視界にも入らないでください」
「え……ちょっ」
「では…」
朝から体調が悪い事も相まって、かなりイライラしてくる。歩くスピードが徐々に速くなっていく。早く真に会って、癒されなければ苛立ちでおかしくなりそうだ。
「はぁ?」
彼のスマホに仕掛けたGPSは昨日行った部室を表示している。彼の位置が正確にわかるようにかなり高性能なものなので間違いはない。
急いで彼の元に向かって行く。彼が自分以外の女と知らない所で……
許せない…
さっきから歩くというより走っていると言った方が良いくらいのスピードで足が速くなっている。
地学準備室の前に着き思いっきり扉を開くとそこには、女子と仲良さそうに隣同士で話している真の姿があった。
「浮気?」
「あれ?…なんで…」
彼がここに居るということは本来なら私は知らない。彼は不思議そうな顔をしている。そばには昨日もここに居た二年の先輩がいる。
仲良さそうに二人でスマホの画面を覗いていた。あの距離はただの男女にしては近すぎる。これはもう浮気確定だ。
あぁ…最悪な一日だ。
◇◇◇お礼・お願い◇◇◇
どうも広井 海です。
第15話を最後まで読んでいただきありがとうございます。
月ちゃん、完全に発言が全部自分に返ってきてますね。ブーメランいくつ刺さってるんだろう?
もし少しでも良いなと思ったら、☆評価、いいね、コメント等いただけると大変うれしいです。
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