第14話 気まずい空気
「ほい、これ昨日言ってた本…」
「ありがとう」
昨日貸してほしいと言われていた
「今日中に読んでおくね」
「別にもう読んだから…返すのはいつでもいいんだけど…」
「早く君と感想を言い合いたいから…」
そういって本を持って両手で抱えている。
まだ、朝のHRまで時間があるが教室にはかなり多くの生徒がいる。大半の生徒は友達と話したり、スマホのゲームをしたりしている。
「じゃあ…また」
「バイバイ」
月の教室から離れ、自分の教室に向かう。他のクラスの奴も教室でにぎわっている。
「よっ…おはよう」
「おはよう」
自分の教室に行くと、すでに隼人が登校していた。俺の前の席でサッカー部の友達と話している。
「なぁ…真、聞いてくれよ。こいつさ…胸より尻派とか言ってんの…どう思う?」
「
「うん…絶対尻だって」
隼人と話していた友達
「真は?」
変な会話に無理やり付き合わされる。鞄を机に置きながら、仕方ないので答えておく。
「俺は……太もも派」
「「はぁ?」」
二人が同時に呆れた声を出す。仲がいいのか悪いのか…
「こいつ異端だわ~」
「どうすんだよ…さらに増えたぞ、フェチが…」
「人の性癖にケチ付けんのか?」
俺を含めた三人はお互いに睨み合う。自分の好きなものを馬鹿にされてはこちらも黙ってはいない。
「じゃあ…お互いにプレゼンしていこうぜ」
そこから朝のHRが始まるまで…いや授業の合間にも俺たちは自分の性癖がいかに素晴らしいものかプレゼンし合うという謎の行為をしていた。
「マジ…つっかれた~」
「お前…ちょっとは…手加減しろよ。こっちは初心者だぞ」
三時間目の体育を終え、昼休みに入った。体育の授業でサッカーの試合をしたため、身体が疲れ切っている。
昼飯を食べながら、三人で会話をする。入学してからは大体三人でいつも昼飯を食べている。
「そういえば彼女に弁当作ってもらってたんだっけ」
「彼女じゃないし…つか、なんで知ってんだよ。お前あの日休んでただろ」
凪がこの前の事を話始める。月が弁当を持ってきたときの話だろう。凪には言っていないはずなのだが、何故だろう。
「隼人から聞いた」
「お前な~」
「えっ?…なんかマズかった?」
別に隠すことでもないが、他の人に言いふらすようなことでもない。友達にバレると少し恥ずかしく感じる。
「いいな~彼女」
「だから…違うって…彼女じゃなくて…」
そういいながら弁当の中身を口に運ぼうとした時…
「藤原、女子が呼んでるぞ」
「え?」
教室の入口の方を見ると見慣れた顔がそこに立っていた。こっちに気づいて手を振ってくる。ここまでタイミングが良いと盗聴されているような気がしてくる。
「な…なに?」
急いで教室の外にいる月のもとに行く。昼休みの時間はもうすぐ終わりなので、廊下にも多くの生徒が出ていて雑談したりしている。
「実は授業変更で体育があるの忘れてて体操服忘れちゃって…貸してくれない?」
「え?あぁ…持ってるけど…汗かいたから貸すのは…」
「別にいいよ。汗かいてても…」
「嫌だよ…さすがに」
4月の終盤とはいえ、今日は気温も高く、激しく運動したので体育で着ていたTシャツとハーフパンツは割と汚れている。とても人に貸せる状態ではない。
「お願い…真しか頼める人いないの…」
「分かったよ…ジャージだけでも貸してやるから…」
「ありがとう」
そういっていきなり抱き着いてくる。廊下にはまだ多くの生徒が歩いている。
「みんな見てるって」
「見られて興奮してる?」
「してないって」
無理やり月を自分の体から引きはがして自分の机に向かって行く。持ってきていたジャージを取り出し、教室の前で待っている月に手渡す。
「ありがとう…放課後に返すね」
「ああ」
月は廊下を歩いて自分の教室に戻っていった。月の背中を見届けた後、自分の席に戻って昼食の続きを食べる。
隼人と凪はにやにやしながらこちらを見ている。
「なんだよ?」
「いや~いいな~と思って」
「漫画とかで見る奴じゃん。彼氏からジャージ借りるって」
「もういいって…」
二人に呆れながら、弁当の中身を食べ続ける。
「終わった~」
前の席に座っている隼人が思いっきり背伸びをしているのが目に入る。今日の授業が終わり、生徒の多くは完全に帰る準備をしている。
「早く部活行こうぜ、凪」
「ああ、先行ってて。すぐ行く」
「OK。じゃあな真」
「バイバイ」
隼人が急いで荷物を鞄に入れ、別れの挨拶を俺に言いながら教室を出ていく。
「じゃあな」
俺と隼人の席から少し離れた席にいた凪も俺の肩を叩きながら、ゆっくり教室を出ていく。
「…俺も行くか」
入部届を担任に渡すために職員室に向かう。昨日、先輩からもらった入部届を手に持って教室を出る。
「ん?」
いつもなら月が教室の外で待機しているか、教室に入ってくるかしてくるはずなのだが今日は彼女はいなかった。
「そういう日もあるか」
月は別に彼女ではないのだからいなくても何も問題はない。しかし、月がいないと何か違和感がある。
違和感を抱えたまま廊下を歩いていく。職員室の前に着き、荷物を持ったまま扉を叩いて中に入る。いつ来ても生徒にとって職員室というのはどこか疎外感がある。
「いねぇ」
担任の教師のデスクには誰も居ない。おそらく部活にでも行ってしまったのか。
「すいません…これ中村先生に渡しておいてくれませんか?」
「ん?あぁ…いいよ」
ちょうど暇そうにしていた学年主任の教師に入部届の紙を渡して足早に職員室を出る。そのまま廊下をまっすぐ進み、昨日行った文芸部の部室を目指す。
なぜ文芸部にしたのか。人数が少なく、活動内容もあいまいで緩いという点が気に入ったというのが表の理由。
実際は先輩たちが卒業した後ならあの部室を一人で使えるかもしれないというのが本音。
そんなことを思いながら歩くと思ったより早く着いてしまった。昨日と同じように地学準備室に入る。
「あっ……えっと…こんにちわ」
「…こんにちわ」
「えっと…入部してくれるんですか?」
「はい…他にやりたい部活もないんで…」
部室の中には影宮先輩しかいなかった。スマホで何やらゲームしていた。
「えっと……じゃ…じゃあ好きな席使ってください」
「ありがとうございます」
小さな声で座るように促された。影宮先輩は昨日と同じ入口から一番近い席に座っている。
いきなり近くは気まずいので先輩から一番遠い対角の位置にある窓際の席に座る。
「……」
「……」
お互いに会話はない。教室には沈黙だけが漂っている。俺は鞄から持ってきた小説を広げて読み始める。
先輩も俺も積極的に人付き合いするようなコミュ強ではないので、こうなるのは当然だ。
今更ながら部活に入ったことを後悔し始めて来た。部活に入る目的は横や縦のつながりをつくるためなのだが、これではそんなこと到底できない。
「あ…あの…先輩ってなんでこの部活に入ったんですか?」
「ふぇ?え…え…っと…」
まさかいきなり話しかけられるとは思わなかったのか、先輩は身体をビクッと震わせた。傍から見てもわかるくらい慌てている。
「……先輩が優しかったからかな…」
「あぁ…優しそうですもんね先輩方…」
まずい…会話が途切れる。話題が見つからない、どうしよう……
「何やってるんですか?」
「え…これ…知ってる?」
先輩はさっきまで触っていたスマホの画面をこちらに向けて来た。俺と影宮先輩は対角の位置に座っているのでかなり距離がある。
席から立って先輩に近づいていく先輩の横に移動して画面を見る。
「あぁ…知ってますよ。最近人気ありますよね、これ」
先輩のスマホの画面にはかわいい女の子がたくさん出てくるスマホゲームの画面が映されていた。俺も一時期やっていたので見覚えがある。
「や…やってる?」
「今はあんまりやってないですけど…前はめちゃくちゃやってました」
「ど…どの娘が好き?」
先輩はさっきまで割と小さな声で話していたが、いきなり声量がデカくなった。
「あの…狐の子が好きでした」
「あぁ…この娘」
先輩はキャラが見れる画面を開いて、俺の言っていたキャラのイラストを画面に出した。
「可愛いよね…実は一途なところとか、弱さを隠してるところとか…」
先輩は先ほどよりもかなり饒舌にしゃべっている。
「あっ…私はこの娘が…」
その時、扉が開いた。一瞬、三年の先輩かと思ったが誤りだった。
「浮気?」
部室に入って来たのは月だった。
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