第13話 文芸部
「教室…間違えたな」
「そうだね…もう一回プリント確認したら?」
「ああ…えっと…」
もう一度確認するために鞄を探ろうとした瞬間、バンッと勢いよく扉が開いた。
「あ…あ…あの…入部き…希望のか…方ですか?」
先ほどカメラを持っていた女子生徒が言い淀みながら聞いてくる。焦りすぎて額には汗をかいている。
「えっ…と違います」
「そ…そんな~、あ…待ってください」
映画の気まずいシーンを親と一緒に見てしまったような気持ちになるので逃げようとするとその女子生徒が俺の袖をつかんで来た。
「ちょっ…」
「少しいいですか…」
そばにいた月が俺と女子生徒の腕をつかんできた。袖越しでも握られていると感じるくらい結構力が入ってる。
「ふぇっ」
「お話、聞きますので離れてください」
「は…はい」
改めて見るとかなり小さい…おそらく150㎝前半くらいの身長のメガネをかけた女子生徒はおとなしく俺の袖を離す。
「と…とりあえず…どうぞ」
そういって部室の中に入るよう促す。俺たちは気まずい気持ちを押し殺して中に入る。
先ほどはカーテンで閉め切っていた部屋が明るくなっていた。大きな長テーブルが中央に置かれ、折り畳みの椅子が4つ置かれている。
先ほど抱き合っていた女子も椅子に座っている。
「こ…これ…座ってください」
カメラを持っていた女子生徒が椅子を2つ並べてくれた。部屋には何か気まずい雰囲気が漂っている。部室に居た女子生徒と俺と月が向き合う形になる。
「えっと…改めてお聞きしますが、お二人は入部希望者ということでいいですか?」
長い黒髪の女性が聞いてくる。身長はかなり高く170㎝を超えている。下手したら俺よりも背が高い気がする。
「いや…入部希望というより、見学に来ただけなんですけど…」
「なぜか変なことをされていたので…」
何故か俺と女子生徒の会話を遮って話始める。月も先ほどの光景を見ている。
「それは……本当にごめんなさい」
「いえ…特に気にしてませんので…」
部室に居た部員三人がみんな頭を下げてくる。なんとなく申し訳なくなってくる。
「えっと…あなたが部長さんですか?」
「あっ…はい。文芸部の部長の
姫川先輩は軽く自己紹介した後、隣に座っている女子に自己紹介するように促している。
「一応、副部長をやっている、三年の
橘と自己紹介した先輩はかなり整った顔立ちをしている。ショートの髪と凛々しい顔立ちをしている。
「あ…えっと…二年の
さっき袖をつかんできた小柄なメガネ女子はそれだけ言うと黙ってしまった。
「じゃあ…二人も自己紹介してくれるかな」
姫川先輩は俺達にも自己紹介をするように促してくる。
「はい…一年の藤原 真です」
「同じく一年の血原 月です」
それぞれ自己紹介を終えて、また姫川先輩が話始める。
「今日は文芸部に来てくれてありがとう。文芸部は自分の好きな小説だったり、漫画とかを読んだり、書いたり、語り合ったりしてます」
「えっ…本を書くんですか?」
「あっ…いや、強制ってわけじゃないよ。そこらへんは自由にやっていいだよ」
「そうですか…」
一瞬焦ってしまった。今まで小説や漫画など描いたことはないので、この部活をあきらめるところだった。そういった創作は昔から苦手だ。
「二人はなんか好きな作品とかある?」
「俺は…
「あっ…知ってる。面白いよね、なんかすごいリアルっていうか…現実っぽさがあるっていうか…」
「知ってるんですか」
いきなり橘先輩がこちらに聞いてくる。周りで知っているという人を見なかったので驚いた。
「うん…結構マイナーだけど知ってるよ」
自分のお気に入りの作品を知っている人を見つけると意外とうれしく思えてくる。
「自分は「
いきなり太ももにチクリと痛みが走った。誰かが思いっきりつねったような。
「へぇ~そんなに面白いんですね…私も読んでみようかな~」
そういって隣に座っている月がこちらを見てくる。俺の右に座っている彼女の左手を見ると俺の太ももをつねっているのが視界の端に写っていた。
「ど…どうした?」
「な…なんでもないです」
「……そうか」
橘先輩はあまり深くは詮索してこない。正直変な空気になってしまったが、姫川先輩が再び話題を振る。
「血原さんは何か好きな作品とかある?なくても全然いいんだけど…」
「私は…ミノムシっていう人が描いている漫画が好きでよくネットで読んでます」
「ブフォッ!?」
いきなりペットボトルの水を飲んでいた影宮先輩がむせ始めた。
「大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
「だ…だい…大丈夫…ゴホッ」
隣の橘先輩が影宮先輩の背中をさすっている。だんだん落ち着いてきた影宮先輩はまた下を向いてしまった。
「へぇ~ソウナンダ」
「どうかしました?」
「いえ…何でもない…です」
何故か先輩のはずなのに影宮先輩は月に対して敬語になっていた。さっきよりもメガネの下の目が泳ぎまくっている。
「…なんか変な空気になっちゃったね」
俺の怪しい動きのすぐあとに影宮先輩も急に慌て始めたため部室内は妙な空気になってしまった。
「部員ってこれで全員ですか?確かプリントには所属人数4人って書いてあったんですけど」
「あぁ~それね…二年生にもう一人部員がいるんだけど、月に数回しか来ないんだよ。私たちも毎日は部活に来れてないからあんまり強く来てとは言えなくて…」
「そうなんですか…」
姫川先輩が丁寧に説明をしてくれた。橘先輩も会話に混ざって追加説明してきた。
「そうなんだよ~私もタイミングが合わないと会えないからマジで5回くらいしか会ったことない…」
三年生である橘先輩でもそのくらいしか会っていないとなると本当に幽霊部員のような扱いなのだろう。
「学校には来てるんだよね、
「あっ…はい、体育の授業のとき一緒なのでよく見かけます」
二年生の先輩なので俺は顔すら見たことないのでどんな人なのかは分からない。
すると、突然…校内放送が流れる。
17時になりました。部活動見学をしている一年生は速やかに下校してください。
「おっと…もうそんな時間か」
「あっという間だったね」
4月の間、一年生は5時過ぎには帰らなければならないらしい。そのための放送が流れた。
「すいません。じゃあ俺はこの辺で…」
「あっ…そうだ。これ」
「これって…」
「入部届の用紙ですか…」
4月に入ると各部に入部届の用紙が配られる。うちの学校はそれに名前などを記入して担任に提出すれば正式に部員となるシステムらしい。
「うん。もしよかったら入部してね。まだ一年生一人も入部してないから」
「はい…それでは失礼します」
「……失礼します」
俺と月は荷物ともらった用紙を持って部室を出る。
「ねぇ……真。まさか文芸部に入るわけじゃないよね」
「えっ?いいなって思ったけど…」
「絶対ダメ!」
生徒がほとんどいない廊下で大声を上げる。月がこちらに向き、手を握ってくる。
「あんなとこに居たら…絶対浮気するでしょ」
「だ・か・ら~彼女じゃないだろ。お前は…」
「なんでそんなこと言うの……君の彼女になりたいのに…」
泣き出しそうな声を出している。しかし、この前も同じ手段を使っていたためこれが嘘泣きだということは分かっている。
「俺は今は誰とも付き合うつもりは……え?」
彼女の顔を見るとその赤い目には涙が浮かび瞳も潤んでいた。顔は少し赤くなっているような気もする。
「なんで…私…直すから…君の理想の彼女に…なるから……だから…」
その泣き顔が昔の誰かに似ているようで心が痛む。前にも別の人にこんな風に泣かれたような気がする。
「あ…いや…別に嫌いって訳じゃないよ。今は女の子と付き合う気がないだけ」
「じゃあ…私の事、好き?」
「そ…それは…」
答えに詰まる。本当の気持ちに蓋をしている、罪の意識が喉に詰まっていて声が出ない。
「他の人より話しやすいとは思う……なんかごめん」
「ふ~ん…じゃあ、さっき言ってた本、貸して」
「え?」
「私も読むから…」
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