第12話 部活を見つけたい

「どうしたの?帰らないの?」


 黒髪赤眼の女子が隣に座ってくる。教室にはほとんど生徒は残っていない。彼女はこちらに笑顔を向けている。


「今週で部活の見学期間が終わるからどの部活にしようかなって…」


「えっ?部活には入らないって言ってたじゃん」


「そうだけど……部活には入っておいた方がいいって友達が…」


「ふ~ん…で、どこに入るの?」


「まだ、決まってない」


 中学の時は陸上部に所属していたが、中学の時の部活はかなりストイックな部活だったので強制力がない所が良い。しかし、そうなってくると大抵の運動部はダメになってしまう。


「何見てるの?」


「これ…入学式の時にもらった部活紹介のプリント…」


「確かに…もらったね」


 このプリントにはこの学校にある部活の活動場所、活動時間、所属人数など記載されている。一つ一つに練習風景などの写真が載っている。


「ねぇ…ひとつ言っておくけど…」


「何?」


「もし、部活に入るなら女子がいない部活にしてね」


「なんで?」


「なんでって……私の知らない所で女の子と連絡とったり、仲良くなられるのは嫌だから」


 完全に暴論だ。しかしそれがいつも通りのことなので特に言及しない。


「別に関係ないだろ。同じ部活だからって仲良くなるとも限らないんだから」


「そうだけど…もし自分の彼女が男だらけの部活に入りたいとか言ったら嫌でしょ」


「そりゃ……そうだけど…」


 会話が途切れたため再びプリントに向き直る。


 条件としては所属している人が多すぎず、活動内容が簡単で、拘束時間が少ない部活が良い。まるで就活をするような感覚で部活を探す。


 今のところ目を付けているのは二つ、天文部と文芸部。とりあえず教室から部室が近い天文部から見てみることにする。


「よし、行くか…」


「どこに?」


「お前は帰れよ…部活には入らないだろ?」


「私は君が部活に入らないなら入らないって言ってただけだよ」


「あれ?そうだったか」


 少し記憶が曖昧だ。そんなことを言っていたようにも思える。


「まぁ…いいや天文部に行こうと思ってるんだけど…」


「じゃあ…私も行く」


 そういって二人で教室を出る。時刻は16時を少し回ったところ、見学をしている時間はまだある。





「失礼します。部活を見学したいんですけど…」


「あ!もしかして一年生?」


「はい」


「どうぞどうぞ」


 俺と月を出迎えてくれたのは眼鏡をかけた男子生徒だった。学年章から見るに三年生だということがわかる。


「えっなになに、一年生?」


「えっ…あ…はい」


 いきなり部室に居た女性から話しかけられる。その女性は俺と月に近づいてくる。声量の大きさも相まってかなりの迫力があり、少したじろいでしまう。


「私、天文部の部長の川崎かわさき 華子はなこっていいます。よろしくね~」


「川崎先輩…いきなりそのテンションで出迎えないでください。一年生が怖がるでしょ」


「えぇ~だって…初めての一年生だよ。そりゃテンションも高くなるって…」


 自分たちに軽い自己紹介をしてきた川崎と名乗る女子先輩はずいぶんと明るい女性だった。俺は声も出せずにいると眼鏡の先輩が俺たちの方に目線を向けて来た。


「ごめんね。ちょっとこの人…興奮しちゃって…」


「おい…なにすんだ…離せお前ら…」


 部長と名乗っていた先輩は他の部員に押さえつけられて椅子に座らせられた。部室の中には5人の部員がいた。女子2名、男子3名。パンフレットに書いてあった通りの人数だった。


「見学だったよね。ちょっと狭いけどそこの椅子に座って」


「はい」


 部室に入ってから月は一言もしゃべっていない。ふと隣を見たが、月の目つきはいつもより鋭くなっていた。まるで狩人が獲物を見る目のような…赤い瞳はより一層血のような色に染まっていた。


「えっと…うちは天文部で…主に天体観測や星についての語り合ったりしています」


 眼鏡の先輩は俺たちが椅子に腰かけたのを見計らい、話し始めた。


「あっ…僕は二年の柏木っていいます。よろしく」


「あ…俺は一年の藤原です」


「同じく血原です」


 名前と学年を言われたため反射的に返答する。


「天文部に興味を持ってくれて、ありがとう。二人はなんでうちに来てくれたんだ」


「えっ…と、なんとなく良さそうだなと思ったからです」


「私は彼と同じ部活に入るために来ました」


「え?」


「気にしないでください」


 どんな人間でもいきなりこんなことを言われれば聞き直すだろう。もう説明するのも面倒くさいので追及されないように気にしないよう促す。


 先輩は少し怪訝な顔をしていたが、説明を続ける。






「ありがとうございました」


「もし少しでも入りたいと思ったら気兼ねなくまたこの部室に来てください」


「はい、失礼します」


 そういって部室のスライドドアを閉めて、廊下を歩いていく。


「どうするの?入るの?」


「ん~悪くはないんだけど…天文についてあんまり興味ないしな…」


「入らないの?」


「明日、もう一つの部活を見てから決める」


「そう…」


 まだ入部の申請期間には余裕がある。天文部は一旦保留にして、明日はもう一つの文芸部に行こう考えていると…


「そういえば…真」


「んっ何?」


「天文部の部長を見てる時…胸、見てなかった?」


「はぁ?見てねえよ」


 いきなりそんなことを言われ、少し動揺する。確かに天文部の部長は驚異の胸囲だったが、さすがに初対面の人の胸を見つめるほど終わってる人間じゃない。


「私じゃ物足りないってこと?私がエッチなことしてあげようか?」


「なんでそうなるんだよ」


「私の胸も負けてないと思うだけど…」


「だから…違うって…」


 わずかに歩く速度が上がる。一瞬変な妄想をしてしまった。それを隠すかのように廊下を歩いていく。


 時刻はすでに五時を大きく回っていて、外はオレンジ色に染まっていた。






 翌日の授業も大して変わらなかった。いつも通り決められた時間だけ勉強をして、その日の授業は終わった。


「じゃっ、部活行ってくるわ…真」


「ああ、行ってら」


 隼人は帰りのHRが終わると急いで教室を出ていった。サッカー部では一年は先輩が来るよりも早くグラウンドに行き、準備をしなければならないらしい。


「大変だな~サッカー部」


「そうだね~」


「うわっ…居たのかよ」


 いつの間にか月は俺の背後に立っていた。昨日と同じように彼女は俺の隣の席に勝手に座って来た。視線は常にこちらに向いている。


「今日はどうするの?」


「今日は文芸部に行こうと思ってる」


「もういいじゃん…部活入らなくて…」


「自分の居場所があった方が良いだろ」


「ふ~ん」


 昨日も同じような会話をしていた気がする。気にせず席を立ちあがり教室を出る。月は常に俺の隣にいる。この光景にもそろそろ慣れて来た。


 はじめのころは女子が隣にいるだけで緊張していたが、今では特に気にしていない。


「ねぇ、なんで真の席の隣っていつもいないの?」


「さぁ?入学してからずっと空席だけど先生も何も言わないんだ」


「不登校とか?」


「いや、入学した時からだから…不登校とかではないと思うだけど……分からない」


 イジメや学校生活に不満を持って不登校になるなら分かるが、一度も学校に来ていないのに不登校というのはあるのだろうか。


 そんな会話をしているうちに文芸部の部室の前まで来ていた。地学準備室を部室として使っているようだ。中から話し声などは聞こえない。


「失礼します」


 扉を二回ノックして、扉を開ける。カーテンが一部閉められているため部室は若干暗くなっていた。


「あっ」


「「えっ」」


 部室の中には三人いた。制服を着崩して抱き合った女性二人、そしてそれをカメラで撮影している女性が一人。抱き合っている二人の距離は仲良しという枠を超えているように思える。スカートの隙間から下着まで覗かせている。


 三人の視線は部室の入口に注がれている。


「……失礼しました」


 俺は部室の扉を半ば強引に閉じた。






 ◇◇◇お礼・お願い◇◇◇

 どうも広井 海です。


 第12話を最後まで読んでくださりありがとうございます。


 風邪のせいで数日寝込み投稿が遅れました。大変申し訳ありません。


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