【三題噺 #46】「鏡」「龍」「日」(393文字)

 龍を見た人

 僕は昔、龍を見たことがある。

 最近になって龍を見たことを思い出した。そう言うとクラスメイトは胡散臭そうな目で見てくる。

 大学受験が押し迫ったこの時期に何を言い出すんだ、と思っているのだろう。受験のストレスでおかしくなってると思われてるのかもしれない。

 面白がって話を聞こうとするやつもいる。

「今から三十年以上前のことなんだが」

 僕がそう話し始めると『何言ってんだ、こいつ』という表情になる。

 それはそうだろう。十八歳の僕の三十年以上前っていつだよ。

 

 龍を見たときはもう日が暮れていたのか、天気が悪かったのか。

 暗い中、ふと空を見ると龍がいたのだ。ただ、それだけ。ほんの数分、その姿を 見ただけ。

 龍を見てその後何かあったかは覚えていない。


 龍を見たことを思い出したのは、僕にとって良くなかったのかもしれない。

 洗面所で鏡を見ると、僕ではない知らないおじさんが映っていることがある。

 でも僕にはどうしようもない。

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