【三題噺 #44】「足音」「コピー」「ソース」(666文字)

 足音がついてくる

「しまった」

 店に入ってすぐに俺は後悔した。出張先での仕事が終わり会社へ戻る前に、昼飯を食べようと洋食屋へ入った。そこは食品サンプルではなく料理の写真が貼ってあり、それがとても美味しそうだったからだ。オムライス、カレーライス、スパゲッティミートソースにナポリタン、ハンバーグなどの定番洋食はどれも美味しそうに見えた。             

 しかし店内は薄暗かった。照明は全部照明がついているのに薄暗かった。

 壁には古びたポスターが何枚も貼ってある。

 古臭いキャッチコピーに古臭い髪型に古臭い洋服を着た女性。それらに見つめられているようで居心地が悪い。

 注文したカレーライスは普通に美味しかった。会計をしている時レジ横の壁に貼ってあるポスターと目があったような気がした。

 会社へ戻り仕事を終えて帰宅する途中、足音に気づいた。俺をつけているようだ。    

 俺が走ると足音も早くなり立ち止まると足音は消える。振り向いても誰もいない。人の隠れる場所がないような道でも誰もいなかった。

 それが何日も続きストレスが溜まってくる。会社でもつまらないミスが多くなった。

 そんな俺に同僚が声をかけてくれた。俺の話を聞いて自分のお姉さんの悩みを解決した霊能者を紹介してくれた。リモート相談三千円とのことなので試しに利用してみる。

 俺の話を聞くと霊能者は答えてくれた。

「あなたに憑いているのは帰り道が分からなくなっているからです。あなたがお店に連れて行けばいいんです」

 次の休み、あの洋食屋へ行った。オムライスを食べて店を出る。

 俺はあの霊能者にダマされたと思った。

 足音がついてくる。今までとは違う足音も。

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