【三題噺 #42】「テープ」「ロープ」「ホープ」(727文字)
呪いに希望はあるか
兄さんのアパートへ遊びに行き、久しぶりに会った。
兄さんは随分変わってしまった。最後に会った時より痩せて顔色も悪い。
部屋も変だ。散らかっているし洗面所の鏡の割れているところがテープで補修してある。ふすまも破れたところをテープで補修してあるが、途中でやめたのか破れたままになってるところも多い。
それにこたつの上に灰皿がある。兄さんはタバコをやめたと言っていたのに。
灰皿を見つめていた僕に兄さんは独り言のようにを言う。
「気持ちを落ち着けるためにちょっとな。最近、声が聞こえるんだ。何を言ってるか分からないけど、声が聞こえるんだ」
僕は呪いだと思った。
先祖に金持ちの商人がいてとても女癖が悪かったらしい。問題が起こるとお金で解決したようだ。でもお金で解決できなかった女の人がいて、その人を殺してしまった。その女の人に呪われているらしい。
だが、子孫全員が呪われるわけではない。僕らの父さんはもうすぐ還暦だが大きな病気も怪我もなく過ごしてきた。でも父さんの一番下の弟は中学生になる前に交通事故で亡くなったそうだ。父さんのいとこも癌で何人か亡くなっている。他にも自殺した人や病気で苦しんだ人が何人もいて、誰にいつ呪いが現れるか分からない。
その呪いが兄さんに現れた。
僕は家に帰ってから両親にその話をし兄さんとマメに連絡を取るようにした。
そんなある日連絡が取れなくなった兄さんを探していると、僕のスマホに母さんから電話があった。
「お兄ちゃんがロープで……」
灰皿には多くのホープの吸い殻が残っていた。遺書はなかったので兄さんが何を考えていたのかは分からない。
あれから五年経ち、僕は兄さんが何を考えていたか何となく分かるようになっていた。
僕も声が聞こえるようになっていたからだ。
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