【三題噺 #39】「モデル」「タクシー」「アリバイ」(444文字)

 アリバイは必要か

 私は小さな芸能事務所に所属しているモデルなのだが、全然仕事がない。

 だから仕事がある先輩の付き人みたいなことをしている。先輩はモデルというよりも女優としての仕事が多いので、私も撮影現場に付いていく。

 今日は深夜の探偵ドラマの撮影だ。

 先輩は殺人の容疑者の一人の同僚で刑事がアリバイを聞きに来た時に「その日の午前中、彼は会議に出席していました」と答える役である。

 先輩の撮影が終わってからバスで帰った。ランクが上の俳優さんはタクシーを使える。早くタクシーが使えるように、いや、専属運転手が付くように頑張ろう!

 事務所で報告して仕事が終わり、先輩に晩御飯に誘われた。先輩はお酒も入り結構 機嫌よくおしゃべりをしている。

 もういい時間なので帰ろうと声をかけようとした時、先輩が独り言のように言った。

「刑事がアリバイを聞きに来るようじゃだめよね。疑われるような証拠を残すなんて」

 その言葉を聞いてふと思い出した。

 会社にまで何回も何回もお金を借りに来た先輩の彼氏、最近全然来てませんね。

あれ? 先輩、もしかして……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る