TURN.05「スカイ・ハイ(Part,1)」


 【サイバー・ダイバーズ】。

 それはV.i.Psのシーズンになってから追加されたジョブ。新展開を迎えた舞台に相応しい職業である。

 基本的にはそこらの剣士や銃使い、魔法使いと早々変わらないジョブなのだが……サイバー・ダイバーズは公式で“無法者の集団”という設定がある。


 建物に潜伏し、略奪する。即ち怪盗のようなもの。

 それらしくスキルは回避やステルス系が多く、敵を状態異常にしたり、能力値を下げたりなどそういったスキルが多めだ。

 故にサイバー・ダイバーズは本来なら正面衝突の戦いは能力値の影響でやや不利。敵から見つかる前にこっそりと仕留めるのが基本だからだ。


 尤も、ヴィヴィッドは上手く能力値を調整し、苦手な部分も自身の戦闘センスで上手くカバーしている。Vi0はその一面を評価していた。


「【ショッキング・ガトリング】! ハチの巣にする!」

 空中での高速戦闘。左手に装備された巨大ガトリングを放つ。

 Vi0は逃さない、超高速で相棒の戦闘機と共に空を駆けるヴィヴィッドの姿を。

「撃て! ベガアスッ!!」

 。それがヴィヴィッドの駆る愛馬の名前。

 ベガアスから放たれるのは無数のレーザー光線。砲塔は存在しない。レーザーはベガアスの本体そのものから出現している。

 ガトリングを回避、同じくレーザーも回避。互いに高機動を活かし、敵の翻弄を試みようとする。

(見た目がデカいから狩るのは容易いと思ったけど、上手くは行かないかッ……)

 ヴィヴィッドは自身のサブジョブの存在を隠していたと口にしていた。そのジョブの正体はあのマシンだ。

(そっちのジョブも……も相当使いこなしてるわね……! あんだけ暴れ回っても振るい落とされないし、マシンでの指示も的確!)

 【サイバー・メカニクス】というジョブがある。

 特徴の説明として……サイバー・メカニクスはプレイヤーに一人、バイクなどの全プレイヤーが使用できる乗り物とは別にことが出来るのだ。

 大きな違いとして、与えられるそのマシンとは……主人の命令に付き従い、場合によっては独自の行動で主人のサポートを行う“生命体AI”であるという事。

 つまり犬や猫、ドラゴンなど飼い慣らせる魔物のようなペットというわけである。

 ヴィヴィッドにとってのペットがあの戦闘機マシン・ベガアスというわけだ。

「逃がすなッ……あれだけの装備だ! いつか当たるッ!!」

(弾幕も厚いッ……!)

 放つ弾幕の差もヴィヴィッドの方が上だ。常時展開しているバリアのおかげでダメージは低く済んではいるものの、長期戦となればいつかは撃墜される。

「「【ダイナマイト・ミサイル】!!」」

 互いにスキルを発動。虚空から現れた電子の門より現れる巨大ミサイル射出。

「「……ちぃいっ!」」

 瞬時に反応。互いにミサイルを回避。

(これじゃ埒が明かないッ!!)

 ガトリングは何発か命中こそしているが、ベガアス自体もバリアを展開している。相当なハイテクマシンをペットとして連れ回しているというワケだ。

 お互いにダメージはそれほど受けていない。勝負はまだまだ続く。

「懐に潜り込むのも難しいかもね……!」

 一発一発弾の補充に準備がかかるならそのリロードの瞬間に突っ込む手があったかもしれない。だがあの様子ではマシンのエネルギーが切れるまでは特に何の仕込みもなく光線を放ち続けられそうだ。

「だけどォッ! やるッ!!」

 残りのスキルポイントの量的にもグタグタと続けていたら消耗戦で負ける。何せ、サイバー・メカニクスのマシンのスキルポイントはプレイヤーとは別扱いだからだ。

 先にマシンを黙らせる必要がある。幸い、ペットタイプのHPはそう高くない。クリティカルな一撃を叩き込んでやれば、一瞬で黙らせることが出来る。

「【第一だいいち一揆刀戰法式いっきとうせんほうしき】!【露滝あらだき】ッ!!」

 背中、そして脚部のジェットブースターを全開。ベガアスの放つ光線の包囲網をうまく掻い潜り、徐々にだが懐へと潜り込んでくる。

(早いッ……それにあの刀ッ! 白兵戦をやろうというのかッ!)

 ベガアスの縦横無尽射撃を回避しながらVi0が接近していく。ヴィヴィッドはそのハイスピードに狼狽えている。

(これだけの思い切り。バリア貫通は持ってると考えるのが妥当かッ……!!)

 彼女の腕には地上で使っていたものへ更に装甲を付け足し強化された刀。

 あれほどの技量の持ち主が何の考えもなし闇雲に突っ込んでくるとも思えない。このベガアスを一撃で倒せる自信があるからこその行動だとヴィヴィッドは予測する。

「貰ったッ!!」

 相当な接近を許した。バリア諸共ぶった斬ろうとVi0は剣を振るいあげる。

「スキル! 【ショック・ウェイブ】発動!!」

 寸前。ヴィヴィッドはベガアスのスキルの発動を宣言する。

「なっ……!?」

 あと一歩。あと少しでVi0はベガアスに飛び込めた。

 しかしその寸前でVi0の体は吹っ飛ばされる。見えない何かに押し出されたように。

ッ……!)

 バリアから放たれたのは目に見えない音の攻撃。そして音は風圧にもなり敵を押し出す。Vi0の体は風に飛ばされた新聞紙のように無防備となる。

「即座臨機応変のスキル故にポイントを消費するがやむを得ない……!」

 これだけ広範囲に適したスキルともなると消費は激しい。ベガアスだけではなく、

「だがッ! 隙は出来たッ!!」

 奥の手が通った事もあって相手は最早無防備も同然の状態。今この瞬間を逃すわけには行かない。

「一斉射撃準備! ベガアス、敵を撃つぞッ!」

 ヴィヴィッドはサイバー・ダイバーズでも放てる唯一の大火力スキルの準備。ベガアスもまた、残ったエネルギーで放てる最大出力攻撃の準備に取り掛かる。

「【パワー・キャノン】充填! ベガアス、【エヴォリューション・キャノン】用意ッ!!」

 二丁拳銃の銃口にエネルギーが充填。

 ベガアスの前部先端からの光の球体が数個出現。最大出力の光線攻撃の雨霰で確実にトドメを刺す!



「攻撃準備! 発、しゃ……ッ!?」

 即座の充填完了。攻撃開始。勝利は目前。

 そのはずだった。

「うぐっ、がぁああっ……!?」

 爆発。衝撃によりヴィヴィッドはマシンから放り投げられる。

 突然の奇襲。背後からの攻撃に反応できず、窮地に追いやられるのはヴィヴィッドの方。

(なん、だっ……何処からの攻撃……!?)

 攻撃の正体も掴めぬまま、ヴィヴィッドはサバンナの大地へ真っ逆さまに落ちていく---

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