TURN.04「サバンナ・チャンバラ(Part,1)」
先制攻撃を仕掛けたのはVi0だ。
「アンタの武器は銃身の長い二丁拳銃! まずはそれを叩き斬るわッ!」
先日の戦闘イベントでヴィヴィッドの戦い方はある程度目にしていた。
近い敵はショットガンで風穴を開け、やや遠めの敵はガンブレードのマグナムで撃ち抜く。ショットガン持ちの相手に近づくという戦法はあまり良い選択ではない。
「……何も考えずに突っ込んでるとは思えない。回避スキルを仕込んでいるな?」
何か対策を練ってきているはずだ。カウントがゼロになったと同時、間髪入れずに突っ込み相手に判断を急かさせる……反撃という判断を。
「そうはいくか。ココは冷静に対処させてもらう」
しかしヴィヴィッドはその手には乗らない。彼は迫りくるVi0に対しマグナムを撃ちこむ……命中。
「目が良いじゃん。パパッと見抜いちゃってさ!」
弾丸はVi0に直撃している。していたはずだ。
しかし弾は彼女をそのまま通り過ぎていく。まるで彼女に実体がないように。
「だけどそれくらい見抜かれるとは思ったよッ! そっちの判断よりも早く! その冷静な判断すらも鈍いと言わせるスピードを見せてやるッ!!」
予想通りだ。彼女は飛び込む前、瞬時に回避スキルをつけていたようだ。マグナムの弾丸が触れると同時にVi0の姿が消える。これは一種の幻影スキル、囮と言ったところか。
「貰ったァアア!」
背後、本物のVi0が斬りかかる。刀を両手持ちに切り替えている。
「【
攻撃スキルの使用を宣言。
大ダメージを与える大振りの攻撃スキル。一発目から勝負を決めに行くつもりか。
「ならコチラの打つ手も決まっているッ!」
ヴィヴィッドは身構える。
(……!?)
マグナムのみ。銃を持っているのは片手のみだ。
(いつの間にかショットガンを持っていないッ!?)
もう片方はいつもならショットガンを持っているはず。しかし、その片方は何故か手ぶらだった。彼女はそれに気づかなかった。
Vi0が現れたと同時、そのもう片方の手の中に……その武器が具現する。
「くっ……!」
唸る。Vi0の一閃はヴィヴィッドには届かない。
----剣だ。全身真っ赤のライトセイバーだ。
(剣ッ!? セイバーもあったのかッ!!)
ヴィヴィッドは剣を手にし、Vi0の攻撃を弾いている。
パリィというべきか。文字通り、彼女の攻撃をよんでのカウンターだった。
このスキルにパワーの差など関係ない。タイミングがしっかりと合えば、相手へ確定反撃の大ダメージを与える便利なスキルだ。
「うぐぐっ……!?」
Vi0の体力が減る。ダメージは体力の五分の一を削るに至る。
「少しズレたか……いやそれだけじゃない。突撃前に防御バフも盛っていたか。姿が見えなくなった瞬間……確か、幻影化にその効力があったか」
バフとは基本的に“自身の能力を向上させる事”を意味する。
Vi0は突撃前に回避スキルだけではなく、しっかりと能力値アップのスキルも仕込んでいたという事だ。
戦闘において、飛び込む前に万全の状態を整える。こういったRPGゲームで初手にバフを盛りまくるのは定石。Vi0は最低限の保険を仕掛けていたというわけだ。
「拳銃だけじゃないのね……アンタが使う武器」
「撃ってばかりじゃ勝てない敵も多いからな」
ショットガンとマグナムの二丁持ち。この組み合わせで対人戦に勝つのが辛いというわけではない。現にヴィヴィッドは何度か勝利をおさめてはいる。
「弾は無限じゃないという弱点もそうだが、お前のように執拗以上に近距離戦を仕掛ける奴の事が沢山いる。この装備を見て、そんな作戦を企てる奴も少なくない。カウンターだけじゃないぞ、白兵戦もしっかりと心得ている……ッ!!」
拳銃は弾丸を使う。当然リロードもする。その隙を狙われると厳しくなる。
何より戦闘の間、弾は無限に存在するわけじゃない。雑に撃っていれば、いつかは弾切れが生じる。
「そのセリフ、私を見込んでくれたってこと?」
「最初に会った時にそう言ったつもりだがな」
「そういやそうだっけ……ごめんネ。私ってばさ、褒められた事よりも馬鹿にされた事の方がずっと頭に残るタイプでさ」
その欠点を少しでも補うために近距離用にセイバーも装備している。ヴィヴィッドは剣術スキルもしっかりとその身に叩き込んでいたのだ。
「馬鹿にしたつもりはないがなッ……!!」
利き手で振り回される赤いビームセイバーの出力は上がり、より巨大な刃となって形成される。今度はコチラの番と言わんばかりにヴィヴィッドがVi0に突っ込んだ。マグナムを連射し相手に防御を強制しながら。
「その態度がそう言ってるんだッ! 私を舐めないでよっ!!」
Vi0は地に足を踏ん張り、無理な姿勢だろうがヴィヴィッドの攻撃を受け止める姿勢に入る。
「こっちだってカウンターはあるってのッ!! バカがッ!! 【
「ちぃいい……ッ!」
最高のチャンスを狙ったつもりだったが甘かったかと認識する。
ヴィヴィッドの一撃は受け止められただけではなく、さっきのヴィヴィッドみたく綺麗に弾かれる。彼女もヴィヴィッドと同じくカウンタースキルを仕込んでいた。
(体が仰け反るッ……確かダメージではなく、隙を作らせるスキルかッ!!)
相手に倍のダメージを与えるヴィヴィッドのものとは違い、相手を怯ませるタイプのカウンターだ。そこから大ダメージの一撃や、大火力につなげるコンボをしかけるための定石タイプの技である。
「さてと! 今度こそ一撃をお見舞いして、」
「【デス・ショット】!!」
「……!?」
不意に聞こえる、ヴィヴィッドの攻撃スキル使用宣言。
「……ちぃいいっ!!」
反撃はしない。Vi0は舌打ちと同時にヴィヴィッドから距離を離す。
同時、銃声が鳴る。その銃声は……ヴィヴィッドのマグナムからだ。
「カウンターに対してカウンター仕掛けるって……! しかもカウンター成立判定出る前に撃ちやがった! コイツ……このスキルの弱点をっ! このスキルの不具合を知ってる! 相当やりつくしてるっ、コイツッ!!」
このスキル。コチラが有利になる状況を作れる便利なスキルではあるのだが……実は致命的な弱点が存在する。一部のプレイヤーしか知らないような致命的な”不具合”が存在する。
「……デス・ショット。確か早撃ちのスキルよね? 急所に当たれば三倍のダメージを与えるメリットつき……コッチのカウンターはさァ。何故か知らないけど成立後に一部の技が割り込めちゃうんだよね。ったく、危ないったらありゃしない」
デス・ショットを放つためにヴィヴィッドは拳銃をVi0に向けたままだった。カウンターで弾かれた直後、すかさずにそのスキルを撃ち込んできた。
「避けたか」
一度距離を取り仕切り治す。Vi0はマグナムによる反撃を間一髪で回避した。
「このゲーム、肉体は現実より好きに動くにしてもさ。異世界転生した主人公みたく器用になることはそう簡単にない。どれだけ武器が強かろうがレベルが高かろうが……結局は自身の戦闘センスと戦略、知識の量が求められる。その武器の取り回し方、アンタ相当経験詰んでるね。かなり強いよ」
片手にそれぞれ違う武器を手にし、スキルなど上手く回す。相応の判断能力と経験がなければ出来やしない。このヴィヴィッドという男は天性のセンスの持ち主か、或いはこのゲームをかなりやり込んだ勢か。
(……引っかかる点がある)
Vi0からの賞賛。しかしそれは彼の耳に届いてはいない。
(まず彼女は戦う前に……職業はプラネットセーバーだと言った。しかし、この戦い方……)
「こっちの戦い方じゃ厳しいか。それじゃっっ……てね?」
-----彼女の手から、武器の刀が消えていく。
「切り替えていくよ」
途端、Vi0の体が宙に浮く。
両手を広げ何かを受け止めるような姿勢になると、軍服風のコスチュームが光に包まれ消えていく。
光の中から現れるのは……体のサイズにフィットした、純白のレオタードインナースーツだ。
「モード・チェンジ。ブレイク・アーマー、フィット・イン」
彼女の背後に巨大な魔方陣が展開。
紫色の魔法陣は電力を纏い、彼女の下へ何かを送り出していく。
「やはり、そっちが本来の姿か」
----彼女が身にまとったのは装着型のパワードスーツだ。
肩部装甲、脚部装甲、そして両手にはそれぞれ武器。ガトリングガンとさっきまで手に持っていた黒いのセイバーだ。顔にはバイザーとセンサーが取り付けられる。
「さぁ! 第二ラウンドと行きましょうかァアッ!!」
瞬く間に一人の刀使いは……俗にいうメカ少女へと変貌を遂げた。
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