第15話 売り言葉に

「改めてさっきは失礼しました」


 近くの街まで移動してミルミを送り届けた後、飲食店にてユースが頭を下げる。

 その隣でゴクウはふんぞり返っていた。

 猿獣人である彼はその尻尾を器用に動かして鼻を掻く。


「んだよセンセー、謝る必要なんて、いだだだだだ!!!!」


 ゴクウが生意気な態度で居ると頭に付けている輪っかを掴んで苦しみ始めた。


「あの輪っかはなに?」

「あぁあれは……」


 その様子を見てライが気になってアーディ聞くと、それは緊箍児きんこじという協会が作った懲罰用の道具という説明を受けた。

 一度付けたら同期する腕輪を持つ者しか外すことが出来ず、その持ち主の意思でいつでもその輪で締め付けられるという。

 何とも恐ろしいものがあるもんだとアスラは目を細めて苦しむゴクウを見る。


「ゴクウ。いつも言っているでしょう。

 間違ったら謝罪をしなければならないと」

「だっ、だってオレ勇者だぜ!?」

「勇者だからと言ってなんでも許されるわけではありません。

 そんなことしているから各地で『勇者特権』を『勇者』なんて言われて批難されるんですよ?」

「でも」

「でもじゃないです!」


 コンコンとユースは説教される。


「ねぇ『勇者行為』って?」


 今度はアスラが小声でアーディに質問する。

 アスラは各地を渡り歩いているが勇者がいた地に出向くことはあまりなく、勇者の評判をあまり耳にしていない。

 アーディはすごく嫌そうな顔で説明した。


「勇者って『勇者特権』と言ってある程度の越権行為が許されてるんです。

 現地の方に物資を補給してもらったり、宿を安くしていただいたり、ちょっとした不祥事に目をつむってもらったりなど」

「それは知ってるけれど……」

「ただ、中には勇者の名を振りかざして好き放題する阿呆がいるわけで」

「あー……たしか『閃光勇者』が」

「はい。

 そんなこと不満に思う人たちが『勇者行為』と言って教会に訴えたりしてきているんですよね」


 フフフとどす黒い瞳になりながらアーディは虚空を見つめる。


「ですから幼い彼にはそのようになってはいけないと支援兼教育係としてユース様が選ばれたわけです。

 見たところ教育が上手くいってないみたいですけれど……」

「みたいね」


 この会話の裏でも説教は続いているがゴクウは聞き流しているのが良くわかる。


「アンタはどう思うの『新米勇者』様」

「うーん、子供だし増長してしまうのは仕方がないんじゃないかな?

 僕からは特に何も得ないよ」

「まぁ、増長しきった結果だもんねアンタ」

「ウッ!?」


 ライに聞こえる程度の小声の言葉のにライは胸を痛める。

 仮面をつけていなかったら無い胃の中の物がひっくり返っていたところだ。

 説教が終わったのかユースは少しため息を付いた後、こちらに向き直った。


「お見苦しい所を見せてしまいましたね」

「いえいえ、そちらもなかなか大変そうで」

「えぇまぁ……そういえばどうしてこちらへ?

 もしかしてアナタ方も噂を聞いてきたのですか?」

「噂?どんな噂なの?」

「この地のあちこちでモンスターの動きが活発になっているという話です。

 中にはあまり見かけないモンスターがいるとか」


 どこかで聞いたような話だとアスラは思う。

 またあんなスカルドラゴンやっかいなやつと戦う羽目になるのだろうか?

 ライもアーディも同じことを考えた為か、苦い顔になっていた。


「それはまぁ」

「軽く調査しましたが、モンスターの分布が変わっているのは事実みたいですね。

 またそれに便乗して盗賊も出没しているので、 ここら辺を通る商人や旅人が襲われる事案が多いようで」

「それなのにあのミルミって子は街の外に出てたの?危なくない?」

「本来、あの手のモンスターはここら近辺にはいないはずだったのですが……」

「よっぽとモンスターが追いやられてるのでしょうか?

 ライ様はどう思います?」

「……とりあえず私が思うに、現状は冒険者と兵士に話を通して一緒に、それも慎重に原因を探るべきだと思う。

 変にやばいものを刺激して事が大きくなってしまったら大変だし」


 勇者モードのライの言葉にゴクウは「へっ」と鼻で笑う。


「あんた勇者って割には弱気だな。

 同じ勇者としてがっかりだぜ!」


 そしてドカッと足をテーブルに乗せて、ライを嘲笑った。


「モンスターも悪い奴らも片っ端からぼっこぼこにして倒しちまえば全部解決できる。冒険者や兵士なんていうそこら辺のザコと慎重に調べるなんて御免だね!」


 その言葉にアスラは眉を顰め、ゴクウに冷めた視線を向けた。


「へぇ~?言うじゃないクソガキ。

 アンタそんなに強いの?」

「はっ!あったりまえよぉ!

 俺はあの伝説の『龍殺勇者』を超える為に鍛えてるんだぜ?」


 自信満々に腕を組みながらゴクウは胸を張る。

 自分の実力に疑いはないのがはっきりとわかった。


「ふぅ~ん……大きく出たわね」

「へっ!なんだ怖気づいたか?

 この俺の偉大な勇者像に!」

「ゴクウ」

「ヒッ!?」

「ユースさん、ちょっと待った」


 ユースが笑顔で起こりながら緊箍児を閉めようとするが、アスラが手を上げてそれを止めた。

 その手でゴクウに指を指す。


「そこまで言うなら戦って実力を見せてもらおうじゃないの」

「実力だぁ?」

「えぇ、実際に戦った方が分かりやすいし、アンタも実力を見せつけることができて気分もいいんじゃない?」

「……いいぜ。

 戦うのはお前か?」


 ゴクウはニヤリと笑い、闘志をむき出しにしながらアスラを睨みつける。

 だがアスラは涼しい顔で受け流し―—。


「いや、戦うのはうちの勇者」

「……んっ!?僕っ!?」


 隣に座り、素知らぬ顔で水を飲んでいたライを親指で指名した。

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嘘つき勇者はゲロを吐く projectPOTETO @zygaimo

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