第14話 勇者一行
「案外のどかな旅ね」
少女は一本に纏めた赤毛を揺らし、眠たそうに道を歩く。
名をアスラ。
17歳という若さにして、プラチナ級と呼ばれる上位の冒険者である。
「平和なことはいいことですよ」
その隣には金髪の修道服を着た少女が優しげな微笑みを浮かべていた。
彼女はアーディ。
教会から勇者の御付きという特別な役目を与えられた神官。
「だというのに」
「あはは……」
二人は足を止め、後ろに振り返る。
そこには青褪めた顔でフラフラと歩く少年の姿があった。
「なんで、二人は、そんなにピンピン、してるの?」
「アンタこそ、馬車から降りてどれだけ経ってると思ってるのよ」
「乗り物酔い対策の魔法があれば良かったんですけれどね」
「アーディ、あんまり甘やかしたりしちゃダメよ」
やっとの思いで二人の元に追いついたであろう少年は呼吸を整える為に大きく息を吸い込む。
そして息を吐こうとしたその時。
「おろろろろろろろ」
「うわぁ!?」
嘔吐した。
アスラは咄嗟によけ、出たものを回避した。
「アンタねぇ!!」
「ごべんなざい」
「ライ様、お水です」
「ありがどう」
アーディは嘔吐するのを予期していたのか、少し離れていた。
手持ちのバッグから皮で作られている水袋をレイに手渡す。
「ほんとだらしないわね。
それでも勇者?」
「うっ……」
彼の名はライ。
アーディが支える『新米勇者』であり、ひょんなことから共に旅をすることになった仲間である。
◯
『新米勇者』ライは本物の勇者ではない。
彼は別の地で勇者ごっこを楽しんでいたところ、教会に捕捉された。
本来なら教会に捕まり、罰を受けるような立場に置かれる筈だったが、そのまま勇者として活動を行っている。
本人は教会が誤認していると思い、バレたらどんな罰が降るか震えながら自分が『嘘つき勇者』であることを隠し通すためにアーディに対しても、素顔や素の性格は見せているものの、自分が勇者であるという嘘をついていた。
ライが自分から秘密を打ち上げたアスラだけが、唯一レイの秘密を知っている……ということになっている。
実際のところは教会側もライが偽物であると把握されていた。
ただ、彼が行ってきた功績が今活動している他の勇者よりも素晴らしく勇者的。
そんな様子をアーディから報告を受け、彼女の進言によって教会は勇者を騙った罰として、昨今右肩下がりの勇者への評判を回復する為に利用することになった。
彼の活躍は期待通りに勇者としての評判を少しずつよくしてきており、聖教にいる教皇はニコニコとしているとアスラはアーディから聞かされていた。
「そんなに辛いなら仮面をつければ?
勇者スイッチ入れれば少しは楽になるんじゃない?」
「いや、もう体力を無いから。
今あれになったらヘロヘロでぶっ倒れる自信ある」
「情けないわねぇ」
アスラがため息をつく。
その時、近くの森から女性の悲鳴が上がった。
ライは誰よりも早く動き、懐にしまっている仮面を装着する。
アスラも一瞬遅れてその後を追った。
先ほどまで弱々しかったのが嘘の様にライは俊敏な動きで声のした方角へと駆ける。
やがて目に入るのはゴブリンに襲われている小さな女の子だった。
数は3体。
二人は抜剣し、ゴブリンの首を刎ねる。
首を刎ねられたゴブリンは何が起きたのか理解しないまま絶命し、それを見た残り1体も呆けていたが、すぐに危機を察知し、手に持つ石斧を捨てて一目散に逃げるが、目の前に光の壁が現れ、逃げ道を塞がれた。
アスラは強く踏み込み、最後のゴブリンの身体を両断した。
「あとは、いないみたいね。
助かったわアーディ」
「ギリギリでしたけどね」
「間に合ったからセーフよ」
その場に遅れてアーディが到着する。
アスラは剣についた血を振り落とし、鞘にしまう。
さて襲われてた少女はと首を動かすと、仮面をつけたライが座り込んでいる少女に手を差し伸ばしていた。
「お怪我はないかい、リトルレディ?」
「れ、れでぃ?」
「この『新米勇者』が来たからにはもうセーフティ。
これ以上無いくらいに安心したまえっ!!」
「はぁ……」
ウザかった。
理由は知らないがライは仮面をつけて勇者のスイッチを入れると途轍もないレベルでうざったくなってしまう。
アレがライにとっての勇者像なのだろうが。
アスラはライの後頭部を叩く。
「あいたっ!」
「ごめんね。
この勇者はちょっとアレなの」
「そ、そうなんですか?
えっ!?というか勇者様!?
本物の!?」
「イエッス!
僕こそが最近話題の『新米勇者』こと、ライっ!
以後、お見知り置きを」
キラッと謎のポーズをとりながらライは自己紹介をする。
少女は完全に置いてけぼりをくらい、唖然としていた。
「貴女お名前は?
怪我はしていない?」
「あ、私はミルミと言います。
怪我は膝を擦りむいたぐらいで、他は大丈夫です」
「アレっ!?スルー!?」
「念の為診ておきますね?
体触れてもよろしいでしょうか?」
「し、神官さんですか?
いえ、ほんとに大丈夫です!
お返しできるものも無いですしっ」
「気にしないでください。
ただのお節介ですから」
アーディがしゃがみ込み、ミルミに視線を合わせる。
ミルミは治療を拒もうとしたが、アーディの笑顔に負け、おとなしくなった。
「僕、ちょっとショック」
「はいはい、いいからゴブリンの魔石取って死体埋めるわよ」
「……はい」
ライは項垂れてゴブリンの死体に歩み寄ろうとした時、茂みから何者かが飛び出してきた。
「テメェら!ミルミから離れやがれ!!」
ソレは光り輝きを治療しているアーディに向かって突貫する。
だがそれはライのによって防がれた。
重い一撃にライは吹き飛びそうになるが、後ろにはアーディがいる。
足に力を入れ、身体を飛び上がらせて吹き飛ぶ方向をズラした。
アスラもすぐさま剣を抜いて、殴りかかってきたソレに斬りかかるが、硬い感触と共に剣が通らないことを理解する。
ならばと剣に炎を走らせた。
「あっち!?」
光が炎を熱がり、後ろに飛び退いた。
やがて光が収縮し、収まるとそこにいたのライよりも若い少年だった。
「いっぱいいる上に魔法を使ってミルミを襲う。
なんて悪党たちなんだ!
許せん!!」
「はっ?僕たちが悪党?」
「お前らはこのオレ、『剛力勇者』が退治してやる!」
「えっ?なんて?」
アスラが聞き捨てられないことを聞き、驚く。
「まってゴクウ!」
「安心しろミルミ!
今助けてやるからな!」
「ちが、そうじゃなくて!」
「行くぞっ!必殺ぅ……!!」
ミルミの静止の声もお構いなしと、彼は再び輝き始める。
レイとアスラは剣を構え、戦闘態勢をとる。
さてどうしたものかと考えると、ゴクウの頭につけられている輪っかが光った。
「うっきゃー!!!痛い痛い痛い!!!」
すると少年が頭を抱えて苦しみ始めた。
「はっ?」
「何が?」
一体何事かと困惑していると茂みから別の影が現れる。
握る剣をそちらに向けると、神官服を着たメガネの男が現れた。
「あぁ、すみません!敵じゃないので剣を納めてください!」
「あれ?ユース様じゃないですか?」
「おや、アーディ君?」
「知り合い?」
「はい。
私の先生であり、今は私と同じ勇者のサポートをしている方です」
「ユース・コリスと申します。
お怪我は」
「僕は大丈夫だけど」
剣を下げたライはチラリと横を見る。
「痛い痛い痛い痛い!!
せんせー!!せんせー!!!これとめてー!!!」
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