モネの"日傘をさす女性"
ただし全体としてのファッションをととのえたもの、ということになりました。
つまり姫ファッションにほっかむり、というようなミスマッチは許されないのです。
わたされたものはすべて身につけること。
そしてもう一つ、アンバーがアイテムを足してゆくのは自由。
以上、似あえばアンバーの勝ち、似あわなければ彼らの勝ちと決まりました。
「またハードルの高いものを持ってきたねリョウジくん。これで本当にいいのかい?」
「ええ。これは着こなす以前の服ですよ」
つるつるのサテン地の、一度着て洗ったらもうつかえなくなりそうなコスプレ衣装です、すでにあちこちほつれていたのをリョウジはちゃんとチェックしていました。
いっしょに選んだ足もとのブーツは19世紀風のすてきなものでしたけれど、頭にはココ・シャネル登場以前の巨大な帽子です。
全体はバランスがとれていても、一つ一つのアイテムが使えないものばかりなのです。
「やーこれは似あっちゃうんじゃないかなー」
ユキが勝ちほこるように言います。
「あれが似あっちまうってよっぽどだろ」
ショーはリョウジの肩をもちます。
「リョウジくん! 手袋と日傘を用意したまえ! この帽子みたいな、なるべくややこしいのをだ!」
試着室からきれいな裸のうでがニュッとのびて、リョウジを指さしました。
「あ、ああ、お待ちください」
リョウジがいそいで指示にしたがい、もとめられた品々をもってきました。
「ジャーン!」
そして試着をおえたアンバーの、なんと
「キャー! やっぱり! ほら! やっぱり!」
おもわず声をあげるユキ。
「これは……まるでモネの"日傘をさす女性"だ!」
「ウソだろ……似あってるじゃないか」
あぜんと言葉をうしなう男子二人と、はしゃいでよろこぶユキ。
「どうだいなかなかのものだろう!」
「はい! 名画の中から出てきそうな、かんぺきな
まちがいなくリョウジのえらんだ服なのに、それを着たアンバーの
「きみたち、
「お、おお。かなりいいんじゃないか。そこらのコスプレとはランクがちがう」
「これは失礼。大変よく似あってます。ん、しかしまさかあのペラペラな生地の、
リョウジがつづく言葉をなくしたようにだまります。
「じっとみるとあの安っぽい生地なのに……たしかに白人系の顔立ちは、洋服がことのほか自然に見えるが、ほかになにか着こなしのヒミツがあるはずだ」
リョウジがなやましげに頭をふります。
ストレートの前髪が、ふわふわ浮きあがります。
「色合わせが正解だからじゃない?」
「それだけじゃない。上着の下に長袖の肌着つけてる。あれでうすい生地の不自然さをカバーしてるんだ」
「おいおいショーくん。どこを見て言ってるんだい? こう見えても
アンバーがすてきにウィンクすると、
「いや、まってくれ。そんなつもりは」
ショーがしどろもどろになりました。
「ショーちゃん顔赤いよ?」
「……うるさいぞユキ」
いつもとちがうショーのようすを、ユキがからかいます。
「シルエット——肌着……そうだ。スカートの下になにか、パニエのようなものを着けてらっしゃいますね? それでシルエットが19世紀風なんだ」
「おいおいリョウジくんまで、私の下着に興味しんしんなのかい? 恥ずかしくなるね」
アンバーがつるりと太ももを見せるとリョウジも顔を赤くしましたが、グッとこらえてつづけました。
「——それで、答えは?」
「正解だよ! やるねリョウジくん! さすがそんなスキニーな上下を着こなすだけはある」
「こちらこそ
パニエはバレエで女の子が腰につける、うつぷせた花びらのようにひろがるスカートです。
ドガの絵なんかに、よく描かれるモチーフといえば、わかりやすいでしょうか。
「そんなの持ち歩くはずがないだろう? これを腰に巻いていたのさ!」
そういってアンバーはスカートのうちがわに手をいれ、ぐいと中のものを引きだしました。
「きゃっ」
下着が見えそうになって、ユキが声をあげます。
「じゃん!」
「それは……」
「さっきまで着てたワンピース……」
そう、アンバーがスカートの下に着けていたのは、ぬいだワンピースでした。
「これさ。さすがに外は歩けないが、試着するだけならこんなものでも
「アンバーさんの純白のキャミソールのすそがチラッとみえたから、キャってなっちゃったんです」
「おっと私としたことがはしたなかったね……ウブな中学生男子にいらない
といってウィンクすると、二人がいっしょにうつむきました。
「じゃあつぎはわたしです! やったあなに着てもらおう」
フンフンとかわいくハミングしながら服をえらぶユキ。
「おいおいルールはあくまで私に似あわないもの、だよ? 分かっているのかいユキちゃん」
「ちゃんはなくていいですよ~ユキって呼んでくださいな~」
「だったら私は……アンバーちゃん?」
「うふふっアンバーちゃんって呼びかた、かわいいですね~。おうちにつれて帰りたくなる
「おいおい私は犬じゃないぜ?」
「アンバーさんなら犬種なんでしょうねー。毛なみをよく手入れしたボルゾイ?」
「長毛種だろうね!」
女の子2人はもうすっかり友だちです。
「ユキめ、俺たちの
「あなどれんな佐藤アンバー。さすがモデルだ、着こなし術の
着こなし、と一言でいいますが、服を似あわせるというのは、ただ選んでソデをとおせばいいというものではないのです。
服が好きな彼らだからこそ、アンバーのすごさがわかるのです。
「じゃあー、私はこれとこれと」
「おお、さすがユキ! 私の弱いところを突いてくるね! これは負けそうだ」
ウキウキで一式をそろえたユキに、アンバーはよゆうしゃくしゃくです。
「おお、そっちできたか」
「本格的な
「アンバーさんならなんでも似あうと思うんだけど、これは単純に
うっふっふわらいは
「ではではドロンと変わり身の術とゆきますか」
アンバーが忍者のように手をくんで試着室にきえると、三人はあついまなざしでそのようすを見つめます。
そのようすを、さらに店員たちとほかのお客も遠まきに見ていました。
なにか面白いことがはじまっているのに、おくればせながら気がついたのです。
「アンバーさんどうですかー? なにか足すものありますかー?」
「まちたまえよユキくん、だって、今、私……
「まあなんてことかしら」
男子二人がまた顔を赤くして紳士にくるりと背中をむけ、
「あの人わざとだよな……」
「ぜったいにわざとだ……」
ヒソヒソささやきあうのでした。
「ユキくん、赤い
「ハイハーイ……無地の無地の羽織り羽織り、それかショールかマフラー」
ユキがたのまれた品をさがしに店内を歩きまわると、ショウとリョウジもそれぞれ別のコーナーにゆく。
「ユキ、これはどうだ?」
「あ、ショーちゃんそれいいねー」
「うす
「リュウちゃんそれキープ!」
2分でマフラー2枚とショールと羽織をそれぞれ1枚ずつ集め、カーテンから腕だけだしたアンバーにわたしました。
まっていると中からパリパリとふしぎな音がします。
「アンバーさーん、
ころあいをみて、ユキが声をかけます。
「上々さユッキー。さあそのカーテンをあけたまえ!」
さて、アンバーの着こなし、そのできぐあいは?
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