第1話 立春、愛と情熱のアロハ
はじまりの柑橘系男子
思春期はあまくてすっぱい
これはそんなお話です。
県立
相手はクラスメイトの
むこうも直司のことを知っていて、幸いにしておぼえも上々。
明星直司15歳、高校一年生。
趣味はネットの動画鑑賞。
好きなおかしはしゅわしゅわぷっちょ。
問題は、どうして彼女が直司を知っていたかであり、そして、藤野ユキとおなじ理由で直司を脅迫してきた二人の男子の存在でした。
「君が明星直司だね」
声のぬしは直司の正面に立ち、メガネをついとそやして直司を見おろしてきます。
「お前、明星直司だよな」
もう一人は、となりの席から引っぱってきたイスにどっしりとおしりををおろし、背もたれを抱きこむようにして直司の顔をのぞきこみました。
四月吉日、はれ。
それは入学式も無事おわり、晴れて新入生となった直司がばくぜんとした不安とちょっぴりの桃色な期待を胸に、これから一年間お世話になるはずの自分の教室の、自分の座席についた一秒後でした。
前方にスリムなメガネ男子。
右手にいかつい茶髪男子。
「君を、わが部に勧誘しにきた」
メガネの男子が言い、そして茶髪がつづきます。
「おい。悪いことは言わないからだまって手芸部に入れ。でないといろいろ困ったことになるぞ」
なんだろう、なにやら
「ちなみにことわった場合、学校中に君がエックス何とかのERO動画マニアであるという
動画好きはまちがっていませんが、エックスなんとかは見たこともありません。たぶん。
いいえ、ちょっとぐらいまちがって見たかもしれませんが、マニアということはないはずです。
「そして3分間200回転のジャイアントスイングを受けてもらう。お前のそのなまくらな体で。ちなみに技をかけるのは俺だ」
おかしが好きな直司、ジャイアントカプリコならわかりますが、ジャイアントスイングは知りません。
その男子が見せつけてくる威圧感たっぷりな太い腕をみると、どうも、あんなふうに甘くてサクサクしたものではなさそうです。
いいえもうこれは明白なる
脳裏では、家電マニアック野郎として生徒たちから遠まきにさげすみの視線を投げつけられながら両足を茶髪男にかかえられぶん回されている自分の未来図がピコンピコン光ってます。直司ピンチ。
想像のなかで、映像が具体的に編集されはじめます。
おべんとう友だちもできない三年間。
123回転めにしておくちからはげしく(自主規制)する自分。
ピュアな高1男子の、現在進行形のリアル
「ちなみにここで言うERO動画とは、
BPOではなくERO、放送倫理・番組向上機構ではなくちょっとえっちで違法なあっちのほうです。
脳内地獄絵図のとおまきにしている生徒たちはみな女子で、その視線は人にあらずのケダモノを見る目。
そんなウワサ流されたら最期、もはや三年間おだやかな学校生活なぞのぞめません。
エロ動画男子、とかお困りのあだ名で呼ばれてしまうにちがいなく、
巨乳マニア
なんていわれもないひぼうを受けてしまうかもしれません。
巨乳めがねっ娘黒靴下マニア
とまで言われたらもう、おんもを歩けないでしょう。
「それがいやならさっさと僕たちの勧誘にしたがいたまえ。手芸部に入部するのだ」
「そうだ。なに痛くはない。最初は多少恥ずかしいかもしれんが、じきになれる」
はたと、直司がわれにかえります。
——手芸部? 手芸というのは、あの、地味めの女子が集まって編み物をしたり縫い物をしたりする、アレ、だよね?
あたりを見まわすと教室はしずまりかえり、だれもが興味ぶかげに直司ととりまく三人の動向を注視しています。
ガン見はしているが、止めようとするものはいません。
「人ちがい、じゃないでしょうか」
本能的なやばさを感じて、直司はシラをきります。
「ううん、あなたは明星直司くんさ! だって、席順を確認してからそこに座ったもん」
いつからいたのでしょう、直司の左側にもう一人、女子が立ちはだかっていました。
——ドキン。
胸がたかなります。
ふわりとやわらかい
窓からさしこんだ四月のやわらかい光が、セントエルモの
「おどかしてごめんね明星君。私たち手芸部なの。はりだされたクラス名簿に君の名前を見つけて、勧誘しにきたってわけさ。ねえ、ぜひうちの部に入って!」
「は? あ、ほんとに手芸部なの?」
ここでメガネ男子が言います。
「心配はいらない。君も必ず気にいるだろう。なにせこの学校の手芸部には年代物のミシンが二台、そのうち一台はなんと
さらに茶髪男子も。
「‘58年物の美品だぞ。おかげでチェーンステッチお手の物、デニムのスソ上げし放題だ。在庫の糸も豊富。綿に綿混、もちろんナイロン糸も各色そろってる。それだけじゃない、ハギレも十分。ヒッコリーだってヘリンボーンだって各色使いほうだいだ」
女の子もたたみかけ。
「もう一台はねー、白い
なんでしょう。
このえたいの知れない連中はなんなのでしょう。
ただひとつ身元がわかるものといえば、彼らがしているワインレッドのネクタイ。
それは自分と同じ一年生の証。
——なんで一年生が、入学早々、クラブの勧誘なんてしてるんだ? それもザ・地味男子なこのぼくを。
地味な女子が地味めの男子を勧誘するというのならわかります。
ですがかれらはそういう
「ねえ、あなたは柊町32にあるセレクトショップ、
まぎれもなく、明星靖重は直司の父親でした。
そして父親は、彼女のいうアパレルショップのオーナー。
「つまり? 父、のお知りあい、いえ、関係者ですか?」
「いえーすっ! 知りあいじゃないけど」
「ビンゴー! 知りあいじゃないが」
「ジャック・ポット! だがまだ知りあいじゃない」
三者三様に声をあげ、指さし、直司の鼻先で指をならしたのです。
『ザ……キーンコーンカーンコーン』
始業5分前のチャイム。
古いスピーカーからながれるチャイムの録音のひびきは、長年の使用で空電にパチパチわれております。
「くそ、時間がないな。かくなる上は非常手段にでるほかないか」
メガネ男子のメガネが真剣の刀身のようにギラリ剣呑にぬめりました。
そのレンズに、巨乳めがねっこ黒靴下のアダルティなパッケージ画像がほの見えましょう。
ですがそんな切っ先のような
そんな弱虫は、
そこを断るつよさを見せないものに、老後のしあわせなどおとずれない、それがお金にうるさい兄の口ぐせでした。
「おい、さっさとOKしろ。さもないと、今後の学校生活の健康は
茶髪が袖をまくりあげ、ぶっとい二の腕をむきだしました。
背もたかく胸板の厚みもすごい。
そのふといのでもって直司を100回転以上もジャイアントにスイングする気です。
ですがそんなぶっといおどしに負けてはいけません。
そんな腰ぬけは、おしぼりとか観葉植物とかを法外な価格で仕入れさせられてしまうのが
「もう、二人ともおどろかせるのやめてー。ねえ明星君、お話だけでもきいて。乱暴なんてしないから。ただ、話をきいてもらいたいだけなの!」
ですがすいこまれそうな青空色の瞳にまっすぐ見つめられたとたん、直司は抵抗すらできずに
「あ、うん、まあ、聞くだけなら」
カクカクとうなずいてしまったのでした。
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