伝説の剣を抜けない男、それでも勇者を目指す

ヤマトケイ

第1話

うわあぁぁぁぁ!!

伝説の剣が抜かれたぞぉぉ!!

勇者の誕生だぁぁ!!

大観衆を前に声援を浴びる若い少年。

眼光は鋭く自信に溢れ輝いている。

そう、まるで伝説の剣の様に。


俺の名前はエリック

両親は冒険者をしている。

もうこの世には居ない。

小さい頃、父親に読み聞かせてもらった

「勇者物語」

ガーネット。 真実を意味する。

アクアマリン。勇敢を意味する。

トパーズ。  希望を意味する。

この3つの宝玉は魔王に対抗できる、

人族唯一の希望。

魔王は王城に攻め込み宝石を遠い何処かへ隠してしまう。

諦めかけたその時一人の英雄が立ち上がる。

神託を受け自分で剣を打つ。

その剣で魔王を封印する。

後にその剣は伝説の剣と呼ばれ、

王都の真ん中で次なる勇者を待っている。


勇者を目指して毎日毎日剣を振り続けてきた。

そして、伝説の剣に挑み敗れた男だ。

今、大歓声を浴びているのは俺じゃない。

自分を勇者だと信じ込み剣を振り続けてきた。

そんな努力は露知らず、すれ違う希望に満ちた表情を見せる野次馬の人々。

前は滲んでよく見えない。

勇者を発表する王様の声も大歓声のせいか、よく聞こえない。

天を見上げる。雨が降って欲しかった。

こちらの気も知らずに騒ぐ観衆、勇者誕生を祝うかの様に照りつける太陽。

「はあ、今までの努力は何だったんだろう」

家路に着く俺は何者でも無い。


飲み屋に行くと嫌でも勇者の話しが聞こえる。


「おい、聞いたか?勇者が現れた。って話」

「ああ、目の前で見ていたさ。最近、魔族の動きが活発になっているからな。魔王も復活するんじゃないか?」

「ぎゃはははは!あり得ないあり得ない!魔王が封印されて千年だぞ!今まで平和だったんだ

何も起きやしねえよ」

「そもそも、魔王なんて存在しないんじゃないか?」

店全体を巻き込んで、勇者と魔王の話。

ウンザリしていた。

もう俺には関係のない事だからな。


「そうだ!勇者はパーティーを組んで旅に出るらしいぞ!噂によれば宝玉を探すみたいだ」

「宝玉って伝説だろ?」

「伝説って事にして誰の手にも入らないようにしてたら?」


面白そうな都市伝説が聞こえてきた。

聞き耳を立てていることを気づかれないように

飲み物に手を伸ばす。 


「何の為にさ?」

「そんな事知らねえよ」


聞く価値のない話かと思っていると


「今まで魔王が現れなくても勇者を探していたのは宝玉を探す為なんだ。

これまで、何度も極秘で派遣隊を送り込んでいるが宝玉は見つからないらしい」


ハっとさせられた。

勇者でなければ剣は抜けない。

でも宝玉があれば勇者になれるんじゃないか?

庶民や冒険者でも宝玉を探せばいいんだ!

伝説の剣を抜けなかった俺はもう諦めるのか!?

沸々と湧き上がってくる。興奮していた。

旅に出る事を決心して走って家に向かう。

勇者の道はまだ残っている!






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伝説の剣を抜けない男、それでも勇者を目指す ヤマトケイ @YamatoKei

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