第301話 冒険者ギルドにお邪魔します

 ギルド長が、ソファで脱力している隙に、窓からお邪魔して先ずは挨拶しとこう。これくらいの礼儀は弁えてるさ。窓から不法侵入はしてるけど。


「お・は・よ・う、ございまーーーす!!」

「……おい、シロー。俺はさっきまでクソジジイの相手をして、朝から最低の気分なんだ!巫山戯てんじゃねぇ!!それに、窓から入って来んな!!」

「聞いてましたよー。お疲れ様です!そんなギルド長には、コレを見て気分を新たに、クソジジイ討伐に励んで頂きたいと思います!」


 ギルド長には、悟郎さんに呪いを掛けやがった、ウコハンボウに会った所から、クソジジイジケイナの護衛がヤツにナイフを突き立てて、そのまま去って行く所を撮影した動画を見せる。それと、ナイフのクローズアップ。


 その動画を見ている内に、ソファでだらし無く座っていた姿勢を正し、徐々にギルド長の目がギラギラと獰猛な光を宿してきた。そして、不敵にニマッと笑う。


「よっし!!やってくれたな、シロー!これでカークの無実を証明出来る!クソ共…見てろよ!!」

「あ、やっぱりカーク隊長は捕まってたんですね?」

「やっぱりってお前……」

「態々、死体にナイフを突き立てて現場に残せば、何かしらの意図があるって、誰でも気付きますよ。その場でナイフを調べたら『衛兵隊の短剣』って出たから、これはカーク隊長を嵌める為の工作活動だろうなと思ってました」


 ギルド長には、この動画を撮った経緯を説明し、他にも宿屋前にいた雑魚連中の尋問と、砂漠で会った反ジケイナ勢力らしき連中の話を見せておいた。


「…はあ。あのクソジジイは態々王都から準備をして、ランティエンスに来ていたのか……。どおりで、色々進みが早いと思った」

「ヤツの買収は、三下にまで広がってます。ただ、金で買われた連中って、貰える物を貰ったら、切るのは以外に簡単ですよね?だからギルド長は、さっさとカーク隊長を救出して、それ以外の地位や権力に釣られたクズの殲滅に尽力して下さい。雑魚切りなら俺でも十分力になれますから」

「それは助かるが……だが、具体的にはどうするつもりだ?正直な所、冒険者の中にもその買収に応じたらしい、怪しい動向の者がいる。なもんで、迂闊に頼むことが出来ない状況なんだよ……」

 

 ギルド長と話をしていると、ノックされたのとほぼ同時にドアが開いた。これはバルクナイダンジョン品狂いさんだな…と振り返ると、予想通り、驚き顔のバルクナイダンジョン品狂いさんと、その後にロレンドさんとトラキオさんが立っていた。


「キッキュゥー(やったよー)!」

「チビお疲れさん!ありがとうな、助かったよ!」


 一仕事終えて戻って来たチビにリンゴを渡して労いつつ、呆けたバルクナイダンジョン品狂いさんを置いてロレンドさん達に声を掛ける。


「良かったです…ギルド長の所に人が来てたんで、慌ててチビに連絡係を頼んだんですよ」

「ああ、帰っていく姿を見たよ。ジケイナが来ていたんだな。かち合ったら間違い無く目を付けられていただろうし、間一髪でチビが来てくれたから、急遽買取り依頼をして倉庫に退避してたんだ」

「………それに、最初からモワノーすずめをランティエンスでも卸そうと思っていたから、丁度良かったよ」


 ロレンドさん達と話をしていると、やっと再起動したバルクナイダンジョン品狂いさんが口を開いた。


「な、何で君がギルド長の部屋にいるんだ?!」

「ああ、さっき来たからですよ?おはようございます、バルクナイダンジョン品狂いさん」

「いや、おはようじゃないよ?!君はどうやってここに来たのさ!」

「そのドアだけが入口じゃ無い……と言う事ですよ。何と言っても、ここはギルド長の部屋ですからね!有事の際に使えて秘密の脱出経路が…………」


 あったらいいね!

 

「おいバルクナイ、シローの言う事を真に受けるなよ。コイツは、そこの窓から入って来たんだからな?」

「え?!でも……そこの窓から出ても、足場も何も無いですよね?!」

「コイツは色々な魔法を使えるんだ。何かは知らねぇが、その内の1つを使ったんだろ?」

「はい、そうです!」


 しれっと肯定すると、バルクナイダンジョン品狂いさんが睨んで来た。この人はダンジョン品が絡まなければ、特に不安は無い。


 だとすれば、とりあえずは冒険者ギルドのギルド員からだよな。ギルド長に動いて貰うにしても、足元が不安定ではやり難いだろうし。


「じゃあ、一気には無理なんでギルド員から片付けましょうか?」

「片付けるって……何をするつもりだ?賄賂を享受したくらいでは、拘束も何も出来ないぞ。」

「俺、あれから頑張って『看破』の熟練度を上げたんですよ。そうしたら分かる事が増えたんで、少しお仕置きしようと思ってるんです。」

「お仕置きだぁ?」


 物は試し。『隠密』を掛け、ギルド員が集まってる1階に降りた。ギルド長達には陰から様子を見てて貰う。


 朝イチで来たから、まだそこまで混み合っていないのを幸いに、『看破』を使い賄賂を貰ってるヤツを絞り込むか…。


 職員も含めてギルド内には38人。解体場〜買取り〜受付〜商人〜最後にギルド員を見て行く。裏方だからか、解体と買取りには残念なヤツはおらず、代わりに受付は、2人買収済、1人が強制(脅迫)と出た。


 何を脅迫されているのかは出て来ないから、あの受付だけは、ギルド長かバルクナイダンジョン品狂いさんに事情を聞いてもらおうか。


 続きましては〜商人。こちらも、普通に護衛依頼で来ているヤツ等ばかりだな…。最後にギルド員!

 テメェ等、仕事もしないで金貰ってんじゃねぇ!護衛なりダンジョンなり行って稼いで来いよ!


 楽して金をもらったギルド員は全部で5人。二人組と三人組で分かれ、2階にあるギルド長室の方を見たり、出入りの人達をチェックしたりと忙しい。一応、仕事はしてる……のか?


 そこまで見てから、まだ職員しかいない買取り場に行って、少し場所を借りたい事を話し、解体の際に魔物を吊るす為のロープを借りて戻る。


 ギルド員は逃げられても面倒なんで、『氷雪』で足首まで凍らせてホールドし、その隙にロープで拘束して買取り場に投げた。

 

 始めはギャアギャアと騒いでいたが、無視して淡々と投げると静かになった。次に受付に声を掛け、3人共買取り場へ行かせる。


 先に奴らが投げられたのを見ていたお陰で、受付達は素直に言う事を聞いてくれて助かった〜。


 そして、ギルド長達にも買取り場へ行ってもらう。


 買取り場に連れて行かれたヤツ等は、ギルド長の姿を見て不味いと思ったのか、静かになっている。


「……で?シロー、ここからどうするんだ?」

「お仕置きしますよ〜。先ずは〜この鉄板を…この位で良いかな?切って〜面取して〜輪っかにしたら…首に装着!後は鉄板に……情報を書いて〜首輪に付けたら……はい完成!!」


 連れて来たそれぞれのヤツ等の首に『ジケイナ買収済 ◯◯ゼル』と書いたプレートを首輪の前後に付けてやった。


 ヤツ等は互いにそれを見てア然としている。そりゃそうだよな!一緒に動いていたのに貰ってる金額が違うとか、マジでウケる〜!


「あははは〜〜!クソジジイジケイナも途中でゼルを出し渋ったのか?お前等、もう用は終わったから戻っていいよ〜!」

「そんな!!これを取って下さい!これじゃ、外を歩けません!!」

「いいじゃんか!真実なんだからそれで堂々としてろよ。それでも付けてるのが嫌なら、何処かで外してもらえば?」


 鉄を捻って首輪にしているだけだから、鍛冶屋とかなら上手く切って外してくれるかもな〜。まあ、いくら費用が掛かるかは知らねぇけど。


 嫌がるヤツ等を買取り場から外に出して、最後に脅迫されていた受付は、バルクナイダンジョン品狂いさんに任せて事情を聞いてもらう事にした。


「また……子供じみたお仕置きをしたな。効果的ではあるが。」

「どうせヤツ等は使いっ走りでしょうから、この位で十分ですよ。」

「…………ランティエンスの鍛冶屋は、職人気質で気難しいから、ヤツ等が駆け込んでも手を貸さないと思うぞ。」

「それは良かった!なら、暫くはあのままですね!」


 そしてギルド長は、受付に戻るとロレンドさん達に護衛としての同行を依頼した。2人がそれを受けて成立した所で、ギルド長は衛兵隊に拘束されているカーク隊長の元へ。


 俺も同行するが、せっかく街中を歩くんだから、動画をリピート再生して、背面にぶら下げて行こう。


 視聴者さんを1人でも多く増やさないとな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る