第294話 鴨狩 スワンプ
小麦畑の先に出て来た森に入ると、道の正面に陽光が照らす空間が見えて、この森が浅い事が分かった。
悟郎さんは一時休憩で俺の所に戻って来たが、今度はチビが『木渡り』で、グングン先行して進んで行く。
……と言うか、木立の隙間に水面で反射した輝きがもう見えるし。
「あの先に見えるのが、もう目的地の沼ですか?」
「ああ。沼を囲む程度に生えた木があるだけだから、森って言えるかも怪しかったな」
ロレンドさんが言った様に、話しながら歩いて行くと、目の前には水を湛えた沼が姿を表した。
水も綺麗だし、睡蓮の様な水草も所々に浮かんでいて、淀んだ感じは全く無い。
他に人も居ないな……ハウスが出せる余地もあるし、ピヨ達を出してやろう。
「ピヨ達カモン!」
「「「ピョッピ(やったー)!!」」」
「ここなら暑く無いだろ?水の近くに行くのはいいけど、気を付けろよ?」
「「「ピヨ(わかった)!」」」
注意したそばから水際に向かい、3羽はバタバタと遊び出す。ピヨ達は、水掻きがあるタイプの鳥では無く、鋭い爪の際までフワッとした羽毛に覆われている。
なので、水に入る事は無く、水を蹴って掛け合う様に遊んでいた。
「………長閑な風景だな」
「そうだな……ここに来ると、余計にランティエンスでの喧騒やゴタゴタを忘れそうだよ」
「俺もちょっと前に、もうこのまま辺境に帰りたいな〜って思ってました」
「………それは悪手だろうな」
「ですよね〜〜」
分かっちゃいるけど、ってヤツだ。あ〜〜クソジジイのお陰でいい迷惑。それが無ければ、チェンパータまで来る事もなかったしな。
ピヨ達の水遊びを見ていたら、チビが少し離れた所から声を出して呼んで来た。
「キュゥ(来て)!」
「ん〜〜〜?何だチビ?」
「キュッ(狩った)!」
「あ?……もしかして『クダツ』って魔物を狩ったのか?」
チビが跳ねている場所まで行くと、水際に首チョンされた鳥が2羽横たわっていた。
「お、チビやるな!そいつが『クダツ』だよ!警戒心が高くてすぐに逃げるから、見つからない様に倒すのが定石なんだ。良くやったな!」
「キッキュー(やったー)!」
「そうだったんだ……悟郎さん、しかもこの鳥は肉が美味いんだって!チビお手柄だ!ありがとうな!!」
「キュ(うん)!」
褒められてご機嫌になったチビが、いつもより多くて回っている。……このバク転といい、教えてもいないのに多芸なヤツだよ。
チビの狩った『クダツ』は、白鳥を一回り大きくしたサイズの水鳥で、羽はホロトリより濃い緑色をしていた。
滋味深い肉……鴨さんでしたか!!鴨肉のスモークが美味いって、本で読んだ事あったな!
あとは定番のロースト、鍋……ポロ葱しかねぇけど、キノコも沢山あるし行ける!
少し和んでたけど、ここからは鴨ハンターに徹しよう。トラキオさんも実家のレストランで使いたいって行ってたから、全員に『隠密』を掛け、鴨狩スタートだ!
ピヨ達には、離れないように着いて来てもらい、沼の周りを『クダツ』を討伐しつつ、探して歩いて行った。
「結構、沼の中央付近にいるな……」
「「「ピッピヨ(大丈夫)!」」」
「は…?ええ?!ああ、ヤバい!!みんな水の側から至急退避!!!」
「「「ピピッ(行くよ)!」」」
全員退避したタイミングで、ピヨ達は揃って『ピリピリ(弱)』を連続して放ち、沼にいた『クダツ』は、漏れなくその場に力なく浮かんだ。ついでに、水中にいたらしい魚や他の怪しげな生物?も腹を上に向けて水面にプカプカと漂ってるし……。
「……イア、オルガ、マシュー、魔物を倒す手伝いをしてくれてありがとう。だけどな、お前より達の『ピリピリ(弱)』は連続して食らったら、ショック死出来る強さなんだ。特に水の側では意図せぬ相手にもダメージを与えかねない。今後は、使う場所にも気を付けるんだぞ?」
「「「ピヨ(わかった)!」」」
「それと、絶対に俺が『待て!』と言ったら魔法を使うのは待つこと!お前達はまだ子供で、これから色々な経験をして覚える事も多い。失敗をするのは良いけど、言う事を聞かないのは絶対に駄目だ。それでもし仲間が傷付いたら、ピヨ達でも許せないからな。」
「「「………ピッ(うん)」」」
うッ!!ピヨ達のしょんぼりに負けては駄目だ!あの『ピリピリ(弱)』を水場の近くで許したら、マジでヤバい。ここは心を鬼にして言い聞かせないと!
「今は暑い地域にいるけど、辺境に戻ったらすぐに従魔の登録をして、一緒に外を歩ける様にするからな?我慢させて悪いけど、もう少し待ってくれ。」
「「「ピヨ(わかった)!」」」
「イア、オルガ、マシュー、いい子だな、ありがとう。クダツの討伐は……もう見える範囲は狩り切ったか…『収納』。あの魚とかは何だ?見ない事には食えるかどうか分かんねぇな…。」
操水の術で、浮いた魚やその他を岸の浅瀬まで寄せて、浮遊物の確認をする。
「…フナ、ウグイ、ナマズ、げ、ヤゴだ……あ、あの虫っぽいのは見たくない……」
「………シロー、その辺の魚はヤメた方が良いんじゃないか?クセがあるって聞いた事がある」
「そうします……」
あ〜…生態系を破壊してたらどうしよう…。全滅は…してないよな?これは、悠長な事を考えずに、もっとピヨ達と一緒に行動して、色々覚えて貰わないとヤバい事になりかねないぞ。
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