第222話 閑話 千の風 その名はトービス
「おい、シロー。ちょっと良いか?」
ギルドでダンジョンの資料を見ていたら、ギルド長に声を掛けられた。何の用だろう…?
「はい、大丈夫ですよ。何ですか?」
「実はな、最近、東の山で変な風が吹くらしいんだ。お前、良くちびっ子連れて狩りに行ってるだろ?何か知らんか?」
「……風って、どんなふうに吹くんですか?」
「何でもよ、無風だったのに急に風が吹いて立ち止まったら、目の前に落石が落ちて来たり、道に迷った新人が風に遮られて違う道を進んだら、無事帰り着いたり、他にも色々あるんだよ…。」
トービスさん?!東の山で見守りボランティアでもしてんのかよ?!そりゃ、俺もフェルドには『東の山では風に従え!』って、言ったけどもね!!
「……ギルド長。」
「な、何だよ。」
「その風は悪い事はしてませんよね。寧ろ人助けをしている。」
「そうだがよ…。あまりにも報告が多くて、流石にみんな気味悪がってんだよ!」
分かる〜〜!俺もビビったもん!だけど、フェルドの今後の為にもここはフォローしておこう。
「ギルド長、俺の村ではこんな風に言い伝えられているんですよ。『風は好機の様なもの(適当)』と。」
「ど、どう言う意味なんだ?!」
「狩りにおいて、風下の優位性はご存知ですよね?また、何処かへ向かうにも追い風が吹けば速度が上がり早く到着出来る。要は風は好機を運ぶ、味方に付けよ!ってことです。味方を恐れてどうするんですか?止まって正解!変えて正解!なら、吹いた風も正解!!風グッジョブ!!」
「ぐっじょぶ?」
「俺の村の方言で、“いい仕事したな!”です。」
まあ、もちろん風が吹いて良いばかりでは無いけどよ。東の山限定って念押ししておけば良いか?
「……実は、俺にも風が吹いたんですよ。」
「なに?!お前も体験してたのか?!」
「はい…。山頂から街に向けて帰ろうとした時、押されるかの様な力強い風が突如吹きました。正に、千の風が吹き渡るかの様に感じました…。」
「そ、そんなにか…?」
「そうです。所で、ギルド長は山頂にある大岩をご存知ですか?」
「ああ…。もちろん知ってる。」
「俺はその大岩が、風を渡らせ、良き風を送ってくれている様に思っんです。何故なら、俺はその大岩を背に街へ向かって降りたからです。」
「おま!お前バカか?!あの道無き道にはフォレストウルフの巣が多数あって、とても街まで無事に帰れる…………まさか…そこを通って戻ったのか?!」
「そうです!だからここに居ます!」
得意満面で言い切った。ギルド長が唖然として口を開け、アホ面になっている。大袈裟に言っているけど、本当の事だしね。
「以前、俺がフォレストウルフを大量に納品した時、それこそ悟郎さんと協力して全力でヤツ等を倒し、やっとの思いで街まで帰って来ました……。」
「だから、それがそもそもおかしいんだよ!!なんでその道を通るんだよ!!」
「………ですが、風が吹いたあの日は違っていました。フォレストウルフに襲われる事もなく、何時もの半分以下の時間で街まで帰る事が出来たんです。俺はその時こう思いました。“これは風が守護してくれたんだ”と。千の風よありがとう!!と。…ですので、恐れず味方に付ける事をお勧めします。但し、東の山限定です。」
「………意味が分からんし、信じられん。」
むむっ!ギルド長……ゴリラのくせに頭が硬いな。しょうが無い。ここは原因でもあるトービスさんに
「では、調査を兼ねてギルド長自ら、東の山へ行ってみると良いですよ。ちびっ子でも1日で往復出来る山です。必要なら同行しますんで、いつでも声を掛けて下さい!」
◇◇◇◇◇
後日、ギルド長からお詫びの言葉を頂いた。
『シロー、この前はお前の話を信じなくて済まなかった……。俺にも…吹いたんだよ。風が………。』
どうやら単独で行って、トービスさんの風を体験した様だ。
生前のトービスさんに会った事はないけど、結構いたずら好きだったのか?
今度、狩人組合のベルタスさんにでも聞いてみよう。
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