第219話 家の内見 〜2件目①〜
「ベルタスさん、今日の内見はこの家以外にもあるんですよね?」
「あ、ああ。俺の女房がそっちに行って鍵の用意して待ってる。案内するから付いて来てくれ。」
俺のお馴染みの屋台通りを抜け、孤児院に行く手前に次の貸家が建っていた。メインの通りから一本入った道沿いにあり南東角地。小さい庭を囲う塀は俺の背の高さと同じくらいだ。
立地は良いな。2人も遊びに行きやすいし、狩人組合へも3分と掛からない。屋台も近いから、飯を作るのが面倒な時はすぐに食いに行けるし、商業組合へも買い物ついでに顔を出せる距離だ。
貸家の前には、恰幅の良い御婦人が一人立っていた。あの人がベルタスの奥さんか?
その人は俺達に気付くと、元気よく両手を上げて、“ここよ〜!”と手を振っていた。二の腕の肉の揺れ具合が激しくて俺の視線が釘付け……。これがあの振り袖か………………。
「ミスリアさん待ってたわ!!どうだった?ウチの旦那の紹介した家は?全然駄目だったでしょう?」
「ユノーさん……。………あの……はい……。」
「やっぱり!だから言ったでしょう?安いからってあんな家駄目に決まってるって!」
「うるせぇよ。」
どうやら夫婦で、ミスリアさんにプレゼンしあって競ってたらしい。中を見ないと決められないが、第一印象は断然こっちだな。
道よりも階段2段分敷地が上がっていて、高さのある木製の塀は、視線を遮っても風が通る様に造られていた。これなら往来する人が多くても気にならない。
「さあ、ここから中に入ってお部屋の探検するわよ!色々あるから、フェルド君とジェインちゃんも気に入ると思うわ!」
「「はーい!」」
ユノーさんに促され、2人も元気に返事を返して着いて行った。よしよし!やっと内見出来そうだな。
「あなたがシローさんね?私はベルタスの妻のユノーよ!ミスリアさん達を助けてくれて本当にありがとう!!それに、あの身の程知らずのクソ女と商会を潰してくれて助かったわ!!狩人組合の他の人もセダンガ商会との契約で苦しんでた人がいたからね…。」
「よろしくお願いします。その契約って、途中解約は出来なかったんですか?」
「出来たわよ。恐ろしい額の違約金を払えばね!最初に良い条件を提示して、この条件なら解約する事は無いだろうと思わせ、高い解約違約金を了承させるのがアイツ等の手口だったのよ。それにアイツ等も手を変えて来るもんだから、組合で注意しても被害が失くならなかったの…。後は契約時に支払われる準備金がいい金額でね。まあ、結局は契約期間中にアイツ等に回収されてしまう仕組みになっていたけれど。」
「ああ、セダンガ商会ならやりそうな事ですね…。小狡い事と責任転嫁には非常に優れていましたから。」
鍛冶師のキャスレイさんも商業組合に協力してもらって、やっと解約したって言ってたから、狩人組合ではそこ迄のサポートが出来なかったのかもな。
「トービスさんだって、ジェインちゃんの治療費の事が無ければ、あんな商会と契約しなかったでしょうし……。」
「……そうですね。でも、あの準備金のお陰でジェインが回復するまで治療が継続出来ました。契約も残り数ヶ月だったから、満了で止めようねって主人とは話をしてたんです。」
んん?!ジェインはどこか悪かったのか?!確か2度目に会った時に調べたけど何も無かったよな…?無かったよな?!
心配になってしまったので、敷地内に入った2人の後を追って、ジェインを博覧強記で確認だ。
名前 ジェイン
性別 女
種族 人族
レベル 2
属性 水
状態 良好(トービスの守り)
体力 10
耐久 7
力 7
魔力 18
知力 12
瞬発力 6
運 6 (+10)
特技 植物育成
魔法 水魔法
良かった…病気の類は無いな。あれ??レベルが1つ上がってる…。それにトービスの守り?!運の括弧内の数字はトービスさんのせいか?!しかも特技まで増えてる…。植物育成って、農家が大喜びの魔法を……俺も欲しいぞ?!まさかフェルドも同じなのか?!
名前 フェルド
性別 男
種族 人族
レベル 8
属性 土
状態 良好(トービスの守り)
体力 23
耐久 22
力 20
魔力 18
知力 18
瞬発力 19
運 17(+10)
特技 鷹の目 身体強化
魔法 ー
うおっ!!フェルドは5レベルも上がってた!!あ〜そう言えば狩りに頻繁に連れて行ってたからな。それに特技も増えて……。狩人まっしぐらだこれ。
「シローお兄ちゃん!!あれなあに?」
「え?あれ?」
庭に入ったジェインの示す方を見ると、木製のベンチが向かい合ってぶら下がっていた。ええ?!あれって箱ブランコじゃねえか?!近付いて、手で押してみるとしっかり動いた!
「フェルド、ジェイン。向かい合って座ってみな!」
「うん、分かった!」
「はーーい!!」
2人を座らせ、手摺をちゃんと握る様に指示を出して、ゆっくりブランコを押す。すると、キコキコと軋んだ音を出しなからブランコは揺れだした。
「わあ〜〜!動いた!!お兄ちゃん椅子が揺れてるよ!!」
「ワハハ〜〜!揺れてるな!変な感じ!!」
初めて乗った遊具に2人共おおはしゃぎだ。その声を聞き付けた大人組も庭に入って、こちらに寄って来た。
「おいおい!これは何だよ?!狡いじゃねぇか!!」
「そんな事ないわよ!!あたしはちゃーんと調べて、ミスリアさん達が良いなって思える家を探したんだから!!値段しか見ないアナタが悪い!!」
そりゃごもっとも。ここならジェインも喜んでくれそうだな。家も築年数が経ってそうなのに、しっかりと手入れがされている。鎧張りの外壁も味があっていいな〜。
「ほら!2人共!!遊ぶのはまた今度にしてお部屋を見ましょう!」
「「はーーい!!」」
ユノーさんに促されて家の中へ。総板張りの為か、玄関から入ってすぐに木の香りがした。いいね〜!
短い廊下から、左手のドアを開けて入るとLDK。食卓テーブルとセットの椅子が4脚。リビングにはローテーブルを挟んで背もたれ付きの長椅子が2脚置いてあった。
対面キッチンもコンパクトながら使い易そうで、上部に吊り戸棚が無くリビングがスッキリと見渡せるし、掃き出し窓からは庭の箱ブランコも見えた。背面には造り付けの食器棚があるから、収納不足の心配は無さそうだな。
何より、南西向きの明るさよ……!しかも、ユノーさんが窓を開けてくれたお陰で、心地よい風が部屋の中を通って行った。
「良いですね!ユノーさん!」
「でしょぉ?台所で家事をしてても、庭で遊ぶ子供の様子も見れるし、居間で寛ぐ時も台所からすぐに欲しい物を持って来れるわよ!」
「……だから太るんだよ。」
「……………何か言ったかしらアナタ?!」
「…いや?言ってないよ……。何も……。」
夫婦ケンカは家に戻ってからしてくれ…。ベルタス夫妻が怪しい雲行きなんでここは先を促そう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
久しぶりで誰よ?!と、ご指摘頂きましたので、忘れられたベルタスの説明を少し。
ベルタスさん → 狩人組合で最初に士郎の応対した組員の人です。その後、フェルドと一緒に弓を教えてくれました。奥さんは初出です。夜露死苦!!
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