第64話 サイド 辺境冒険者ギルド

 ギルドの応接室には、疲れ切った姿のギルド長が頭を抱えていた。

 カレントは、お茶を持って来させる様に受付に伝えその対面に座った。


 さっきまでそこの席には、子供と言っても過言ではない若いギルド員が座っていた。

 1人と従魔一匹で災害級の魔物を倒せる力があり、容量の膨大な収納を持ち、しかも能力を隠す事が出来る。


 フォレストジャイアントボアの牙を見た時は、運良く死んだ個体を見つけ、牙だけ持って来たのかと思った。

 しかし、討伐証明の尻尾があるかを尋ねると、出てくるわ、出てくるわ…。

 胴体部分の皮は丸ごと残っており、それに尻尾が付いたままになっていた。

 4本の足も根本からスッパリ切り落とされ、可食部のみが綺麗に無くなっている。

 まるで、食える部分以外は興味が無いかの様だった。


 更に出された頭部を見た時、アイツの隠している力の片鱗を見た気がした。


 フォレストジャイアントボアの鼻を潰す様な投擲をどうすれば人の力で出来ると言うのか?


 しかも当たった箇所を見る限り、一撃しか入っていない。

 足もそうだが、それ以上に太いあの首を一刀両断する事が出来る、そんな力と得物をアイツは持っている。


 従魔が潰したと言っていた両眼もそうだ。

 言っちゃなんだが、デザートキャットは戦闘能力があまり高く無い。どちらかと言えば、愛玩系の従魔として人気がある。

 しかし、砂漠と言う環境以外での適応が難しく、普通は連れ出しても長くは保たず死んでしまう。


 だが、アイツの従魔はどちらも問題無く、戦い、生活を共にしている様だった。

 あの眼の切り傷は、ボアが反射的に閉じたであろう、その瞼の上から眼底近くまで深く切り込まれていた。

 どう考えても、普通のデザートキャットでは為し得ない事だ。


 どちらも、見た目が可愛らしいと言うか、受付嬢達の言葉だと綺麗系と言うらしいが、強そうにはとても見えない。


 だが、その実は全くの正反対。しかも、縛られる事を極端に嫌っている。

 ウィルライズ様は、召し抱える事を希望されていたがアレでは無理だ。

 栄誉も地位も分かってて拒否していた。


「……ボス。」

「…………何だ?」

「アイツの事は、大人を信じないスラムのガキか、野生動物とでも思って接するしかないと思いますよ。」

「……あぁ、なるほどなぁ。」

「大人に助けて貰えぬまま、飢えた時期があったんでしょう。街でアイツが行った所は、食材屋と屋台と生活用品屋だけでした。」

「………。」

「屋台では、それは丁寧に店の主人達と接し、感謝を伝えてたそうです。しかもトマ煮を気に入ったらしく、鍋ごと買ってたそうですよ。」

「え?あのモウの内臓煮込みをか?」

「はい。鍋ごと買った礼にあのばあさんが値引きしたら、代わりにとクンコウギョを渡していたそうです。」

「はぁ?!クンコウギョだと?!モウの内臓とじゃ全然見合わないだろう?!」

「ばあさんもそう言って固辞したらしいんですが『自分で捕ったからタダだ。売る気もないから貰ってくれ』と言って渡してたそうです。」

「……俺も食いたいぞ。」

「無理でしょうね。それなら俺だってベアを食いたいですよ。」

「あぁ。そう言えば、立派なベアの毛皮を納品してたな……。」

「もし、アイツをこの地に留め置きたいなら、余計な干渉をせず、自然のままに。あと、言い方は悪いですが餌付けが一番効果があると思いますよ。」

「そのようだな……。」

「欲しい物があるのか、探している風だったと聞きました。それも食い物です。麦の様な穀類とまでは分かっていますが、そもそもこの地に入って来ている物かも分からないので…。」

「分かった。ウィルライズ様にも同じ様に説明するしかないしな…。」

「アイツがグランレイン方面から来た事までは分かってます。それ以外は何も分かりません。」

「はぁ。アイツに聞いたって、またあの妙に丁寧な口調で濁して来るんだろうなぁ。」

「でしょうね。何の信頼関係もないままでは、多分教えてはくれないでしょう。」

「ホント、野生動物みたいだな。」

「そう言う意味でもテリトリーを作らせるのがいいんですが。出来ればこの近くに。さっきギルドから出た後、何処へ向うか確認させましたら、街の外に出で行ったそうです。」

「この時間に街の外へ行ったのか?!」

「はい。後を追って行こうとしたら、途轍も無い速さで移動を始めて、そのまま姿が見えなくなったと報告が入りました。」

「……ホント何者なんだ。」

「すぐ拗ねるし、美味い飯を食えば従魔とニコニコしている。得体の知れない子供ってとこまでしか分かりませんね。」

「子供なんだよな…。」

「大人に対する、意地悪付きの子供ですね。」

「たちが悪い!」

「アハハハッ!」

「お前…笑ってる場合じゃないぞ!アイツの応対はお前か担当だ!今決めた!」

「えぇ?!ボス!それは無いでしょう?!」

「俺は、領主様の所へ行って来る。」

「待って下さよ!他の受付嬢でもいいでしょ?!ボス?!」


 士郎の専属担当=カレント(ギルド長 決定)


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