第367話 黄金のブレス

「勇者を……試す?」


 こちらを見下ろす白金の竜に、俺は小さくオウム返しして首を傾げた。


「はい。わたくしの役目は勇者へ試練を課すこと。それだけが、ティターニア様が求めた仕事です」


「つまり聖剣を持ってる俺に何かやらせるつもりか」


「そうなりますね。臆病でしたら逃げ出しても構いませんよ」


「この空間から出れるのか?」


「わたくしはその権利を持っています」


「なら出してくれ。お前にもお前が課す試練とやらにも用はないんだ。俺はただ、契約していた精霊を取り戻すために来た」


 必要のない面倒事はごめん被る。


 しかし、やはりというかなんというか、現実はそんなに甘くない。スキップ可能なイベントなど裏があって当然だ。


「あなた様の目的は知りません。そこまではわたくしも聞いていないので。ただ、この空間から外へ出す場合、妖精たちの森から遥か遠くへ飛ばします。戻ってきてもこの空間を経由しますから無駄ですよ」


「チッ。そうくるか」


 ある意味予想通りの展開ではあった。選択肢の「いいえ」を選んだ場合バッドエンドになるやつな。セーブポイントはここで、正しい選択肢を選ばない限り無限にこのやり取りが続くと。


「だが一つだけ解せない点がある」


「なんでしょうか」


「俺はノームという土の精霊にここへ繋がる祠を教えてもらった」


 厳密には拷問まがいの真似をして無理やり聞き出した。


「それはつまり、祠を無視して先に進むこともできるはずだ。わざわざ祠に入る必要性が感じられない」


「ふふっ、そこまで頭が回るのでしたらもう答えをご自身で持ち合わせているはずですよ?」


 白金の竜は小さく笑った。俺の嫌な予感が見事に的中する。


「てことは……この空間でお前の試練を突破しないとティターニアには会えないのか」


「当然のことでしょう? あの方に簡単にお会いできるとでも?」


「はいはい。いいからさっさと試練の内容を明かせ。お前を殺せばいいのか?」


「わたくしとの戦いは試練の一つにしかすぎません。本当の試練は、この先にいるティターニア様の忠実なるしもべとの戦いです」


「僕?」


「あの剣士を相手にどこまであなたは戦えるのでしょうね」


 そう言って白金の竜が瞳を細めた。濃密な殺気が放たれる。


「やる気満々かよ」


「ええ。ティターニア様からは殺しても構わないと言われています」


「あっそ。じゃあ逆に、——俺がお前を殺してもいいってことだよな?」


 ドラゴンスレイヤーを構える。白金の竜は俺の手に握り締められた剣を見て、目を細める。嫌そうな顔だな。


「それは竜殺しの剣ですか……」


「ああ。お前より強い竜を殺した最強の武器だよ」


 コスパだけで言えば聖剣より上だ。ただし、聖剣は魔族に対する特攻効果を持っている。そこだけはドラゴンスレイヤーより上だ。


 しかし、相手はドラゴン。ニーズヘッグを倒した時と同じように、こいつもドラゴンスレイヤーの糧にしてやる。


 お互いに見つめ合い、先に竜が口を大きく開いた。


 ——魔力の反応!


「ブレスか!」


 咄嗟に俺は後ろへ下がった。遅れて白金の竜が黄金の吐息を前方に放つ。


 不思議なことに地面は燃えていなかった。代わりにパキパキと金属へ変えられていく。


「強制的な硬質化?」


 というか金属に変質させるブレスか。こんなもの初めて見た。


「面白いでしょう? 防御できませんよ。一撃でも食らえばいくら勇者といえども終わりです」


「ハッ。俺に当てられれば、な」


 神聖属性上級魔法を発動する。肉体能力を極限にまで高めた。


 あいつのブレスは確かに驚異的だ。レベル90以上の俺の防御を容易く貫く攻撃力を持っている。攻撃力って言えるのかは謎だがな。


 けどあのブレスにも弱点がある。


 一つ。他の竜種と同じようにブレスを溜めるという準備段階があるため、ブレスが放たれるまでに大きな隙ができる。


 二つ。他の竜種のブレスに比べて攻撃範囲が半分以下とかなり狭い。避けるだけなら楽だ。


 三つ。例え食らっても浸食速度は遅い。完全に金属になる前にその部位を斬り取ってしまえば問題はない。


 以上、実際に白金の竜のブレスを見て感じた感想と弱点を内心でまとめる。


 一番手っ取り早くあの竜を倒す方法は、ニーズヘッグの力であるドラゴンソウルを発動することだ。あの力なら一撃食らえば耐性ができる。そのあとはパワーでゴリ押せば簡単に勝てるだろう。


 問題は魔力消費量の多さ。白金の竜曰くこのあとまだ戦闘は残っている。信じるべきかどうかは怪しいが、この手のイベントはキャラクターが嘘をつかないと相場が決まってる。きっとリアルな世界であってもあの竜は嘘をつかない。そんな気がした。


 ゆえに、力を温存してあの竜を突破する方法、それは——スピードでゴリ押す!


 結局ゴリ押しかよ、と思ったそこのあなた。だって通路の幅が狭くて見るからに動きが遅そうな竜が相手だぞ? スピードを高めて突っ込んだほうが勝率は高い。


 その証拠に、


「おらっ!」


 一瞬にして頭上に回った俺の一撃が、竜の首元を捉えて強烈な一撃を与える。切断にまではいたらなかったが、竜は大きな衝撃を受けて地面を転がった。大量の血を流す。




——————————

【あとがき】

新作の『爵家の落ちこぼれに転生した俺は、元世界ランキング1位の最強プレイヤー』

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