第363話 ノームの話

 土の精霊ノームの体が斜めに斬れる。

 彼女の体は魔力でできている。血の一滴も零れ出ないが、その代わりに、


「いやああぁぁああッ!」


 ノーム自身の悲鳴が周囲に響き渡る。


 よろよろとノームは後ろに下がった。今にも倒れそうなほど顔色が悪い。


 今のはノームがダメージを受けた証拠だ。

 妖精や精霊も自身の体を構成する魔力が無理やり引き裂かれたりすると、痛みに似たものを感じる。


 これは、より人間に近い体と機能を併せ持った妖精と精霊だからこそだ。


 しかし、普通は単なる剣で攻撃しても妖精や精霊は痛みどころかダメージ一つ受けない。


 ではなぜ俺の攻撃は——剣による一撃は精霊ノームを傷つけられたのか。

 理由は単純だ。


 俺が神聖属性の強化魔法を使っていたから。


 強化魔法とは全身を魔力で包み肉体能力を向上させている。それはつまり、魔法を発動中は全体が魔力で覆われているのだ。あらゆる攻撃に魔法の判定が加わる。


 武器も体の一部と判定されているのだろう。偶然にも知ったこの技を使えば、俺は妖精や精霊を物理? 的に攻撃できる。


「ど、どうしてあなたの攻撃が私の体に……」


 予想外だったのか、精霊ノームも驚いていた。

 ぐにゃぐにゃと歪んだ体を、魔力を集めて修復する。


 再生速度もなかなか速いな。生半可な攻撃ではさすがに倒せないか。


「さて、どうやったんだろうな? もう少しお前が斬られれば分かるかもしれないぞ?」


「ふざけないで! 体に纏わせてるその魔力が原因なんでしょ」


「正解。まあすぐにバレるか」


 それよりお前、敬語が抜けてるぞ。もうただの三下にしか見えない。


 精霊とはいえ、攻撃が通ればさほど怖くはないな。シルフィーと違って人間からの魔力供給がない分、魔法の威力も圧倒的に低い。

 これならあと数回で倒せる。


「少しは情報を吐く気になったか?」


「全然。私は逃げればいいんですよ? 忘れましたか?」


 どろっと彼女の足下の土が崩れる。体が沈み、呑み込まれていく。


「さっきの見てなかったのか?」


 俺は再び足から魔力を流した。

 広範囲に広がった俺の魔力が、ノームの魔力とぶつかって彼女の魔法を止める。


 途中で止められたものだから、彼女は地面に埋まった状態になった。


「ッ⁉ また私の魔法に干渉したんですか!」


「お前の魔法は脆弱すぎるんだよ。いいからさっさと吐いてくれ。なるべくシルフィーの同族を殺したくないんだ」


 言いながらノームのそばに寄る。


 お互いに魔力を放出した状態なので彼女は一向にその場から抜け出すことができない。

 得意の土属性ですら俺には負けているんだ。


 首元に刃を置く。


「ティターニアはどこだ? サラマンダーの場所でもいいぞ」


「た、例え首を斬られようとも私は死にませんよ」


「ああ、知ってるよ。けど、痛みはある。お前が死ぬか吐くまで俺が永遠に首を切断し続けてやる」


 相手に恐怖を抱かせるために、本気だと思わせるために剣を振った。


 まずは一回。ノームの首を斬る。


 喉ごと切断したから悲鳴すら出なかった。徐々に魔力が集まって顔が再生されていく。

 ノームの表情は怒りに満ちていた。


「よ、よくも私の首を……!」


「もう一回」


「え」


 彼女が反応するより先に首を斬る。これで二回目だ。


 俺だって心苦しい。彼女はシルフィーとウンディーネの仲間なのだから。

 けどしょうがない。元々こいつらがシルフィーを攫って起こした事態だ。非は向こうにある。


 再び顔を再生させるノーム。今度は苦しみに歪んでいた。


「やめて! 声は出せなくても痛みは感じるのよ!」


「知ってる知ってる。だから斬ってるんだろ」


 精霊も人間と同じく脳さえ残っていれば痛みは感じる。

 かと言って脳を破壊したら痛みがないのかどうかは分からない。俺だって死んだ時の記憶はないし、精霊から教えてもらえるはずもない。


 結果的に首を斬って脳は綺麗な状態を保っているわけだが、予想通り痛みは感じているらしい。


 ノームは俺を止めようとするが、情報を吐かないなら俺は何度でも彼女の首を刎ねる。全てはシルフィーのためだ。


「いいからさっさと吐けよ。楽になりたいだろ?」


 実に悪人らしい台詞を告げる。ノームはまだ悩む素振りを見せた。


「はい三回目~」


 剣を振り上げる。


「ま、待って! は、話せばいいんでしょ……」


 おっ。意外だな。もう何度か殺さないといけないと思っていたが、ノームの精神はそこまで強くなかった。

 それか、最初から話す気でもあったみたいな雰囲気を感じる。


「ティターニア様がどこにいるのかは分からないわ。この森にはいる。でも、詳しく知ってるのはサラマンダーよ」


「じゃあそのサラマンダーはどこにいるんだよ」


「彼女は森を徘徊してる。今もどこにいるのかは分からない。その辺を歩いているわ」


「お前使えねぇな」


 まともな情報など一つもなかった。


 ティターニアがこの森にいることが分かっただけでも喜ぶべきか? いや、微妙だな。最初からいることは分かってたし。


「うるわね! 侵入者のくせに!」


「はい三回目~」


「嘘嘘嘘嘘ぉ! イケメンでびっくりしちゃった! もっと面白いこと言うから許してぇ!」


「面白いこと?」


「この先に祠があるの。ティターニア様が作った祠よ」


 祠? それってフリージア小王国にあったようなやつかな?


「その祠に何があるんだ」


「さあ。私やサラマンダー、他の妖精たちが入っても何も起きなかったわ」


「ダメじゃん」


 剣の切っ先を向ける。


「ちょっとちょっとちょっとぉ⁉ 話は最後まで聞きなさい!」


「まだあるのか?」


「祠のこと! ティターニア様は、選ばれた勇者のみが入ることを許されるって言ってたわ!」


「選ばれた……勇者、ね」


 要するに俺のことか。




———————————

【あとがき】

新作投稿しました。こちらの更新も続けます!

よかったら見てくれると嬉しいです!

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