第229話 全てを救う

 シルフィーと共に居間に移動する。


 部屋の中には、すでにヴィオラとツクヨが集まっていた。


「おはようございます、ヘルメス様」


「おはようございます、ヴィオラ様。ヴィオラ様もご一緒でしたか」


「はい。たまたま早く起きたらツクヨさんがいたので、私もお話を一緒にお聞きします」


「ヴィオラ様にも情報の共有は必要でしょう? いざとなった時、ヴィオラ様には逃げてもらわないといけませんから」


「そうですね。俺は特に問題ないと思います」


 そう言ってツクヨの対面、ヴィオラの隣に座る。


 それを確認して、彼女は話を始めた。


「では、まずはわたくしからお話を」


 一拍置いて彼女は続ける。


「今回のモンスター襲撃の件ですね。あれは、恐らく黒き竜の仕業である可能性が高いです」


「俺も同じ意見ですね。狙いがあまりにも露骨すぎる」


「わたくしが知るかぎり、過去の文献にも同じような状況がありました。黒き竜が行動を始める際、大量のモンスターが連なるように動いた、と」


「それが黒き竜の能力のひとつ……なんでしょうか」


「どうでしょう。そればっかりは憶測の域を出ませんね。モンスターの中でも頂点に君臨するであろうドラゴンです。他のモンスターを従える王としての力を持っていても、何ら不思議ではありません」


「たしかに」


 弱体化した状態の黒き竜ですら、他のモンスターとは一線を画すほどの強さだった。


 下手すると、この世界でも最強クラスの強敵だ。同じモンスターを従えていてもおかしくはない。


 ファンタジーものの定番、魔王のように。


「それで言うと、今後はさらに気をつけたほうがいいかと」


「と言うと?」


「モンスターの襲撃は今回の一回で終わるとは思えません。黒き竜が何かしらの考えのもとにモンスターをけしかけてきたのだとしたら……今回は様子見の意味が強いかと」


「様子見……」


「俺たちの対応力をはかったのかもしれませんね」


「では、復活する少し前くらいには、またモンスターの襲撃が?」


「可能性は高いでしょう。でなきゃ、今回の襲撃が無意味に終わります」


「うーん……状況は依然、最悪ですね」


 顎に手を添えてツクヨは考える。


 どう頑張っても防衛する側が不利な状況だ。


 かと言って、竜の里を捨て去ったら意味がないし、竜玉を守る以上はどこへ逃げてもあまり変わらない。むしろ被害が広がるだけだ。


「なんとしてでも防ぎきるしかありません。そのためには、やはりダンジョンの攻略が急務ですね」


「ダンジョン……ですか?」


 ツクヨとヴィオラが同時に首を傾げる。


 俺は頷いて続けた。


「はい。自分が強くなるためにはモンスターを倒さないといけない。モンスターの襲撃はしばらくこないでしょうから、今のうちにやらなきゃいけませんね」


「ルナセリア公子様が強くなるのでしたら、わたくしたちは賛成します。ただ……この島にはほとんどダンジョンはありません。めぼしい場所はありましたか?」


「そうですね……これ! という場所はありませんが、それなりに強いモンスターが出てくるダンジョンはあります。そこでひたすらモンスターを狩ればあるいわ」


「でしたら、わたくしがこれ以上なにか言う必要もございませんね。すべてはルナセリア公子様のご意思に委ねます」


「ありがとうございます」


 念のため、里にはシルフィーを配置しておく。


 シルフィーなら遠隔でも魔法が使えるし、ククがいるからそれなりに戦える。


 逆に俺は、シルフィーの援護なしでダンジョンを攻略しなきゃいけない。


 普段よりかなり大変だが、決して不可能ではない。


 もしものことを考えるなら、これが一番の作戦だ。


 早速、俺は重い腰を上げる。


「では俺はこれで。今は少しでも時間が惜しいので」


「行かれるのですね、ヘルメス様。里のことは気にしないでください。皆様がきっと、ヘルメス様が帰るまで守ってくれます。私も微力ながらお手伝いしますよ!」


「無理しないでくださいね。あなたは中央大陸にある王国のお姫様なんですから」


「ふふ。いざとなったら、ヘルメス様の助けに期待します。ヘルメス様なら必ず守ってくださいますから」


「ええ。そのときは必ず守ります。この命に代えてでも」


「それはダメです」


 ヴィオラは首を横に振った。


 ぎこちない笑顔で言う。


「今やヘルメス様の命は私より重い。その肩に多くの人の命がかかっています。私すら見捨てて、最後には……すべてを救ってください。それが望みです」


「ヴィオラ様……」


 彼女は優しい人間だった。自分の命より多くの人の命を心配する。


 それは自己犠牲にも等しい。


 だから俺は、彼女と同じく首を左右に振って、


「——いえ。すべて救えと言うのなら……」


 ただただ、笑った。




「俺はあなたの命だって救います。モンスターも黒き竜も倒して、みんなでハッピーエンドを迎えましょう」


「ヘルメス様……」


 それだけ言って、俺は武器を持って出かける。


 本当に……負けられない戦いだな。




———————————

あとがき。


総PV2000万ありがとうございます!

★20000も少しずつ見えてきましたね!

今後とも読者の皆様には応援をよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る