第222話 連戦

 タタタッ。


 近くで聞こえる足音で目を覚ます。


 薄暗い部屋の天井が見えた。


「…………今、何時だ?」


 答えはそばにいる妖精がくれた。


「夜の2時くらいかしら」


「シルフィー……ありがとう。いいタイミングで起きれたらしい」


 そう言った直後、部屋の前に人の気配を感じた。


 続けてツクヨの声が聞こえる。


「ルナセリア公子様、失礼します!」


 襖が開かれた。


 上体を起こした俺と彼女が視線を交わす。


 ツクヨはやや驚いた表情で言った。


「あら? もう起きていらっしゃったのですか?」


「ちょうど今起きたんですよ。何かありましたか?」


「あ、そうです。ルナセリア公子様の予想通り、里の正門付近に複数のモンスターが現れました!」


「やっぱりか……姑息な方法だね」


 やれやれ。こうなるとこれから忙しくなるな。


 俺はグッと背筋を伸ばしたあとに立ち上がる。


「わかりました、ツクヨさん。すぐに向かいます」


「よろしくお願いします。わたくしは先に現場へ向かい部下に指示を」


 装備などの準備を始める俺を見て、ツクヨはツクヨにできることをする。


 入れ違いで今度はヴィオラが現れた。


「ヘルメス様……どうやら始まったようですね」


「ヴィオラ様。お早いお目覚めで」


「遠くから声が聞こえてきましたから。大丈夫そうですか?」


「ええ。俺は勝ちますよ。睡眠も取れて体調もいい」


「それならいいんです。決して無茶をしないように」


「もちろん。帰ってきますよ」


 俺は準備を済ませてからヴィオラと別れて屋敷を出る。


 急いで里の正門へと向かった。




 ▼△▼




 正門の前には、前回より少ない数のモンスターが姿を見せていた。


 不思議だったのは、前回やってきたモンスターよりレベルが高そうなモンスターがいたこと。


 おまけに、連中はあまり積極的に攻撃しようとはしなかった。


 まるで俺を待っていたかのように動き出す。


「やはり狙いは俺か……面倒なことをしてくれるね」


 取り囲むように俺の周りを陣取るモンスター。


 推定レベルは50くらいかな?


 これならダンジョンに行かなくてもレベルは上げられそうだ。


 問題は、コイツらがやたらと慎重な点。


 少しでも時間をかけて俺の体力を削ろうという魂胆が見えた。


 やはり魔物をけしかけているのは黒き竜で間違いないな。


「シルフィー、魔力消費を抑えて魔法を頼む」


「いいの?」


「ああ。俺が動き回って体力を奪われるのが一番厄介だからね。シルフィーなら少ない魔力で十分な働きができるだろう?」


「もちろん。妖精は舐めないでちょうだい!」


 そう言うと彼女は、早速、俺の魔力を使って魔法を発動した。


 規模で言うと初級クラスの魔法だが、俺の高いステータスに補正されてとんでもない威力が出る。


 レベル30も差があると、初級魔法でも大ダメージだ。


 なるべく機動力を削ぐように指示すると、弱った個体を俺が剣で仕留めていく。


 ——うん。この方法が一番楽だな。


「いいね。相手の思い通りにはさせないよ?」




 俺の長い長い夜が始まった。




 ▼△▼




 モンスターを斬り伏せる。


 これで何体目になるのか。俺は数えるのをやめた。


「ふう……一応、今のところは終わったかな?」


「そのようね。またすぐ来るわよ」


「だろうね……まったくもって嫌になる」


 額に付いた汗を拭う。


 彼らがきてから数時間が経った。


 その間、予想通り、ひっきりなしにモンスターたちは里を訪れる。


 全力で俺の体力を削ろうとしていた。


 実際、かなり体力が削られている。


「ルナセリア公子様! 仮設のテントを用意しました。こちらでお休みください!」


 正門のほうへ引き返すと、ツクヨが手を振って俺を迎える。


 わざわざ俺のために休める場所を用意してくれていた。


「ありがとうございます、ツクヨさん。ツクヨさんもほとんど眠れていないのに」


「いえ。戦えない我々は、こんなことでしかルナセリア公子様の役に立てませんので」


「十分ですよ。助かってます」


 わざわざ屋敷に帰る時間を短縮できるのだ。それで十分に休める。


 仮設テントの中に入って、敷かれた布団の上に転がった。


「ずいぶんとお疲れのようですね」


「ええ、まあ」


 疲れていないと言えば嘘になる。


「こうも連続でモンスターが襲ってくるとなると、さすがに体力の限界を感じますね」




 現在、あれからモンスターを倒すごとに新たなモンスターがやってくるようになった。


 夜襲。それも継続的に戦力を投入するという撤退ぶりに俺は辟易している。


 すでに夜は明けて朝だ。


 この分なら、昼夜を問わずにモンスターをけしかけてくるだろう。


 こうしたささいな休みが大切になってくる。


「今はお休みください。少しでもルナセリア公子様が休めるように時間を稼ぎますので」


「無理はしないでください。犠牲者が出ては元も子もありませんので……」


 そう言って俺は瞼を閉じた。


 次の戦闘に向けて体力の回復を図る。

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