第221話 敵の狙い
ツクヨと共に屋敷に帰ってくる。
「お茶です、どうぞ、ルナセリア公子様」
「ありがとうございます、ツクヨさん」
居間に集まった俺とツクヨとヴィオラ。
ツクヨが机の前に湯飲みを置いてくれた。
「どうでしたか、ルナセリア公子様。今回のモンスターの襲撃に関して」
ツクヨは単刀直入に訊ねる。
俺はお茶を一口飲んでから答えた。
「そうですね……まず、不自然にこの里に向かってきていました。それも、過半数を倒したらすぐに他のモンスターは撤退を始めるし……そんな思考、持ち合わせているとは思えない」
「つまり……先ほどルナセリア公子様が仰ったように、今回の襲撃は……」
「黒き竜の仕業である可能性がありますね……」
確定ではないがかなり怪しい。
そもそも、黒き竜が猶予を決めたのはあくまで竜自身の行動だ。
その間、何もしないとは言ってない。
むしろ半月も動かなかったのが不気味なくらいだ。
「黒き竜はどうやってモンスターを操ったのでしょう」
「さあ。さすがに方法までは解りませんね。ただ、モンスターが操れるなら、今後も注意は必要です」
「また来ますかね」
「可能性は高いかと」
わざわざ俺に撃退されることがわかった上でモンスターをけしかける理由は、こちらの体力の消耗だろう。
それなら今回だけで終わるとは思えない。
俺が黒き竜なら、続けてすぐにモンスターを送り込む。
「俺が敵なら……」
どうやってモンスターを送る?
連戦? いやそれは無謀だ。
たしかに体力は削れるが、もっと効果的に疲弊させる方法がある。
人間の限界——三大欲求だ。
「寝ているとき、でしょうかね」
「え?」
「恐らく次に襲撃があるのは夜。全員が寝静まった頃を狙ってきます」
「なぜ夜だと?」
「この里のモンスターとまともに戦えるのは俺だけ。その俺も睡眠は必要です」
どれだけレベルを鍛えても、人間的な欲求、限界を克服することはできない。
人である以上は睡眠が必要になる。
だからこそ、その睡眠を妨害するのだ。
「なるほど……強制的にルナセリア公子様の睡眠を妨害し、戦い続けさせると」
「俺だったらそうするってだけで、本当にそうなるかはわかりません」
もし仮に、相手がそういう判断を下した場合、こちらは寝る時間帯を変更すればいい。
仲間が起こしてくれるのが利点だな。
そうなると今度は、少数を継続的に送り込む作戦かな?
人間に効く方法なんていくらでもある。
相手には地の利とモンスターがいるのだから。
防戦を強いられる側の俺には、どう頑張っても打つ手がない。
「でも、わたくしも可能性は高いように感じます。早めに寝てきますか? ルナセリア公子様」
「そうですね。俺も同じことを考えていました。敵襲があったら起こしてもらっていいですか?」
「かしこまりました。ごゆっくりお休みください」
ぺこりと頭を下げるツクヨから視線を外して、俺は居間から立ち去る。
自室に戻って睡眠を取ることにした。
▼△▼
「なんだか大変なことになってきたわね」
自室に戻って布団を敷いていると、ふわりと宙に浮いたシルフィーがそう言った。
彼女は窓の外を見ている。
「大変……そうだね。これからはレベリングができるかどうか解らない」
「ヘルメス達の話を聞いてるかぎり、まともに里の外には出れないわね。どうするの?」
「まあしょうがないさ。やれることは最低限やった。レベルも80はある。あとは押し寄せてくる魔物を狩りながら地道に強くなるさ」
希望がないわけじゃない。
押し寄せてくる魔物はレベル40~50はある。
それらを大量に倒していれば、少しくらいはレベルが上がるかもしれない。
どちらにせよ、猶予は残り半月。
それまでになんとかして打開策を考えればいい。
「あら、ヘルメスにしては珍しく強気じゃない。黒き竜には勝てないかもしれない~とかなんとか言ってたくせに」
「それは誤解だよ。俺はいつだって勝つ気で臨む。今回はたしかに勝率が恐ろしく低いけど、ドラゴンスレイヤーがあるからまあなんとかなるさ」
「そこは私たちの力ならいけるって言いなさい。他でもない、ヘルメスには私がついているんだから!」
胸を張るシルフィー。
彼女には何度もお世話になってきたからね。その実力を信用している。
「ははっ。もちろんシルフィーには期待してるよ。相手は超超超強いしね。今度こそシルフィーとクク、両方の力をすべて使って勝つ」
出し惜しみはなしだ。
何がなんでも勝たなきゃいけない。おまけに何もかもを使う。
俺のレベル。シルフィー。クク。ドラゴンスレイヤー。上級魔法。
これらが俺の手札だ。
惜しむらくは、未だにドラゴンソウルというスキルが発動条件を満たしていないこと。
強力なスキルっぽいのに使えないのは残念だな。
ひとまずシルフィーに「おやすみ」と告げて明かりを消すと、敷いた布団の上に転がった。
窓の外に見える綺麗な満月を一瞥すると、俺はゆっくりと瞼を閉じて夢の世界へと落ちていく。
疲労からか、案外楽に眠ることができた。
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