第220話 違和感
改めて黒き竜を倒すと決心した俺は、その日の境に狂ったように東の大陸のモンスターを狩っていった。
来る日も来る日もレベリング。シルフィーがジト目で休みを要求するくらいにはぶっ通しでレベルを上げ続けた。
——そんなある日のこと。猶予まで半月といったあたりで、問題は起こる。
「ルナセリア公子様!」
バン! と自室の襖が勢いよく開けられた。
部屋の中に入ってきたのは、屋敷の主であるツクヨさんだ。
血相を変えている。
「どうしました、ツクヨさん。何か問題か?」
「そ、それが……里の近くに多くのモンスターが現れました!」
「モンスターが? 数はだいたいどれくらいですか?」
「判りません。恐らく50以上はいるかと」
「50……それはまた……」
ずいぶんと多いな。
前にモンスターが里に攻め込んできたときもそれくらいいた。
これが単なる偶然とは思えない。
「もしかすると黒き竜の仕業かもしれませんね。一応、俺が対処します。他の人たちにはくれぐれも前に出過ぎないよう指示を!」
「畏まりました!」
俺の指示を聞いてツクヨが急いで現場に戻った。
その間、俺は外へ出かけるための支度をする。
防具を付けて、武器を持って外へ出た。
里の正門へ駆けつけると、すでに多くのモンスターが侍たちと戦っている。
大きな声で侍たちに告げる。
「助力に来た! 侍は一度門の近くまで退いてくれ! あとは俺が引き受ける!」
「救世主様だ! 救世主様が来たぞ——!」
侍のひとりが前線の兵士たちに声をかける。
怪我を負っている者、負っていない者も含めて全員が門のほうへと撤退を始めた。
当然、モンスターたちは逃げる侍を追う。
殺意を漲らせて地面を蹴った。
そこへ、剣を抜いた俺が交代で現れる。
攻撃してきたモンスターを次々に倒す。
「シルフィー、魔力消費は抑えてサポートを。モンスターを侍のほうへ行かせないでくれ!」
「了解。任せなさい!」
シルフィーの風による範囲拘束を行いながらモンスターを倒していく。
動きさえ抑えれば、相手のレベルは俺より圧倒的に低かった。
ここ半月のあいだにレベル80へ至った俺の敵じゃない。
どんどん数を減らしていくモンスター。
その数が半分を切ったあたりで、珍しい行動を行う。
それは——撤退。
本来、モンスターは知能をほとんど持ち合わせていない。
これまでの行動でそれは明らかだ。
しかし、今回里に攻め入ってきたモンスターたちは、仲間がやられるや否や撤退を始める。
まるで雲の子を散らすようにどこかへ消えた。
里の防衛もあるので無意味にモンスターを追えない。
その背中を眺めて、俺は動きを止めた。
「え? モンスターがあんな勢いよく逃げるの?」
「俺もびっくりだよ。これまでモンスターに逃げられたことはほとんどなかったからね……」
余計に脳裏に嫌な考えが浮かぶ。
「やっぱり黒き竜の仕業かな? タイミングが悪いよね、どう見たって」
「黒き竜に他のモンスターを従えるほどの力があるとは思えないけど……モンスターって自由気ままな連中だしね」
「そうなんだよ」
モンスターは同族以外の命令は基本聞かない。そういうイメージがある。
ダンジョン産のモンスターであればこの法則から外れるだろうが、先ほどの連中は外のモンスターだ。
別に家族ってわけでもないのに、多種多様なモンスターが同じ行動を取った。
あまりにも不自然すぎる。
「仮に黒き竜がモンスターを操る能力を持ってるとしたら……なかなか厄介ね」
「しかも自分が動くことなく指示できるんだ、鬱陶しいにも程がある」
相手は、恐らくあと半月ほど封印されている場所から動けない。
だが、モンスターをけしかける分には遠隔からでも問題ないと。
ただでさえレベルを上げている最中だっていうのに……。
「ルナセリア公子様、ご無事ですか?」
正門の入り口をくぐって戻った俺に、ツクヨが声をかける。
俺は苦笑しながら問題ないとアピールした。
「平気ですよツクヨさん。この通り元気です」
「よかった……すみません。いつもいつもルナセリア公子様にばかりお世話になって……」
「そのために強くなってますから。お礼は全てが終わったときにでも」
「はい。その際には、この里のすべての財宝を差し出しますとも!」
「いや、そこまではさすがに……」
俺って公爵家の子息だから別にお金に困ってないしね。
かと言って竜玉とか貰っても今度は王都が危険に晒されそう。
しいて言うなら……かつて英雄が使ったとされるこのドラゴンスレイヤーが欲しいね。
所有で言えば俺が持ってるけど、もともとはこの里の人間のものだ。
俺以外に現状は使える人もいないし、これを報酬に受け取っても許されるだろう。
「それより、ここじゃなんですから一旦屋敷へ戻りましょう。今回の襲撃の件を踏まえてツクヨさんに話したいことがあります」
「話……そうですね。わたくしも今回は気になる点がありますのでぜひ」
こくりと頷いたツクヨと共に屋敷へ戻る。
俺が立ち去ろうとすると、助けられた侍や、いまだ残っている住民たちが歓声を上げながら見送ってくれた。
彼らの笑顔や希望の眼差しを見る度に、自分の肩に多くの人の命がのしかかっていることをわからされる。
俺は果たして……黒き竜に勝てるのか。
その明確な答えを、今だ手に入れられていない。
———————————
あとがき。
今回の話、レベリングパートをカットした結果、作者も意味不明になりました。
最初に説明文を追加したので、
レベリングを始めて半月経ちました。あやや⁉︎問題が⁉︎
と認識していただければ幸いです。どちらにせよ修行パートとか書いてもだれますしね……
※※※※※
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