第218話 竜殺しの剣
たまたまダンジョンの隠し通路で見つけた黒い剣・ドラゴンスレイヤー。
この剣はかつて黒き竜を封じ込めた英雄が使っていた武器らしい。
その効果は不明。ゲームのように親切なテキストが出るわけではない。
だが、再びダンジョン『竜の渓谷』を訪れた俺は、一つの仮説を立てた。
それは、竜を殺せば殺すほど武器の性能がパワーアップする——というもの。
実際、雑魚でも竜を倒すとわずかに剣が光った。
この手のアクションは何かしら意味を持つと思うのが人間の心理だ。あとゲーマーの。
だから俺は、竜の渓谷で最も強いボスドラゴンを倒してみて、ドラゴンスレイヤーの秘める能力を検証する。
そのためには、強い輝きを発したあとでもう一度ボスと戦う必要がある。
ボスは通常の個体より復活時間が長く設定されているため、しばらくはボスエリアの中でシルフィーと談笑して過ごす。
そんな時間が一時間近く経つと……。
「——お、やっと復活したのかあのドラゴン。ずいぶんと長かったな」
目の前に大きなドラゴンが急に現れた。
バサバサと空から降ってくる。
「本当にまたあのドラゴンと戦うの? 正直、天候操作がウザすぎて私は嫌なんですけど……」
「まあまあ。最悪倒す必要はないしね。この武器の性能さえ試せればそれでいい」
「でも倒さないとよくわからないんじゃ……」
「そうだね。だから倒さないといけない」
「あんた頭おかしいんじゃない? さっきと言ってることが違うわよ!」
「よくあることだよ」
そうカッカしなさんなシルフィー殿。
楽しく戦おうじゃないか。
作業っていうのは楽しめなくなったら本当に退屈だからね。
その点、俺はいつだって楽しみながらレベル上げなどを行う。
だから飽きない。飽きても飽きないようにする。
それがゲーマーってもんだ。
鞘からドラゴンスレイヤーを抜いて、ボスエリアに入る。
ドラゴンがこちらを見下ろし、雄叫びを上げた——。
▼△▼
ザアアアアァァ。
ドラゴンの固定能力なのか、戦闘が始まるや否や、天候が荒れて雨が降ってきた。
視界が潰されて服もびちょびちょになって不快な気持ちになる。
だが、それもすぐに湧き上がる興奮で塗り潰された。
「シルフィー! やっぱりこの剣、ドラゴンを倒すほどに性能が上がってるみたいだよ!」
たまらずシルフィーに話しかける。
彼女はどこか呆れた表情で言う。
「あー、はいはい。わかったから戦闘に集中しなさい。まだドラゴンは生きてるのよ」
「もー! シルフィーは冷たいなぁ——っと!」
ドラゴンが口を開けて突っ込んでくる。
それをくるりと横にかわして剣を振った。
ドラゴンスレイヤーが何の抵抗もなく竜の皮膚を斬り裂く。
盛大に血が飛び散った。
「冷たいっていうか、私からしたらよくわかんないのよ。まだ相手も倒せていないじゃない」
「ふふふ。気付かない? 相手の行動パターンがわずかに遅くなってる。それでいて大技が目立ち始めた。これって体力が半分を切ってる証拠なんだよねぇ」
「何言ってんの?」
「要するに、このままのペースならあのドラゴンを早く倒せるってことだよ」
この世界はいろいろとゲームの要素を残している。
それに照らし合わせると、明らかに先ほどのドラゴンより攻撃パターンの変化が早かった。
ボスが体力を削られるとよく見せるやつだ。
俺の予想が正しければ、あと数回も急所を斬れば——勝てる!
確実に数分単位で早く討伐できるようになっていた。
「いいねいいねぇ。ドラゴンスレイヤー最高じゃん」
まさに神が、英雄が俺にドラゴンを殺せって言ってる。
黒き竜の脅威がある今、これほど頼もしい相棒もない。
「……まだよくわかんないけど、あんたが楽しそうで何よりだわ。——次、真上からブレスくるわよ」
「OK。シルフィーも相手の動きが読めてきたね」
そう言って思いきり後ろに飛び退く。
雨を押し出して凄まじい水流が俺の立っていた場所を貫いた。
地面に穴をあけるほどの水流だ。喰らえば瀕死はまぬがれない。
だが、俺もシルフィーもドラゴンの動きやモーションをすでに把握している。
あんなわかりやすい攻撃には当たらない。
つくづくシルフィーが仲間でよかった。
彼女がいなかったら、もっともっと目の前のドラゴンに苦戦していたはずだからね。
「それじゃあ……あとは追い込むだけだ。シルフィー、頼んでもいいかい?」
「任せなさい。さっさと終わらせて帰るわよ!」
シルフィーが魔力を練りあげる。
警戒したドラゴンの動きが止まる——ことはない。
モンスターは基本的に知能が低いうえ、ゲームの頃の法則に従って行動する。
考える脳はあっても、距離を保ったまま様子を見る——という選択肢が選べないのだ。
考えながらも突っ込むしかないドラゴンを哀れに思いつつ、シルフィーと連携してドラゴンの首を落とした。
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あとがき。
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