第216話 水竜
数時間後、ボスが待つエリアの前にやってくる。
「結局、その剣の性能とやらは解らなかったわね」
「そうだね。何度も剣は赤く光ったけど、道中の雑魚だとどうせ一発で殺せるし……かと言ってあのボスとは初見だからどれだけ耐久値が高いのかもわからない……」
「黒き竜と戦う前に検証しておきなさいよ? たぶん、その武器は役に立つはずよ」
「どうしたの、シルフィー。今日は珍しく指摘してくるじゃん」
「たまにはね。今回の敵はそれだけ油断できないってことでしょ」
「……まあ、ね」
ガラにもなくシルフィーも不安を抱いている。
実際に黒き竜が生み出したと思われる分身体——弱体化した状態の黒き竜と戦って、彼女は理解したのだろう。
このままぶつかれば、完全体の黒き竜に俺たちは勝てないと。
だから普段は何の口出しもしてこないのに、念を入れてきた。
俺も同じ気持ちだ。この武器が何かしらのキーアイテムな気がしてならない。
ゲームだと、どちらかと言えばエンドコンテンツっぽいけどな、隠し武器は。
「一応、検証する方法がないわけじゃない」
「どういうこと?」
「ダンジョンのボスは、一定時間が経過するとリポップ——復活するんだ」
「そうね。昔、あんたが馬鹿みたいに討伐してたもの」
「馬鹿は余計だよ……けど、そういうこと。まずは一体ボスを倒す。そのときに剣の性能が上がるはず。雑魚とボス……倒したモンスターのレベル差で武器の強化具合が変わるかどうかもそれで検証できると思うよ。で、復活したボスをもう一回倒す」
「なるほどねぇ。でも、それだと……」
「うん。相手が強かった場合は連戦する余裕はないね。だから割とガチでいくよ」
この方法を取る場合、相手を余裕で倒す必要がある。
上級ダンジョン並みのボスだとレベル80はあるから、レベル70くらいの俺より確実に格上だ。
正直、余裕で勝てる保障はない。
だが、今の俺にはシルフィーがいるし、ドラゴンスレイヤーもある。
これを活かし、時間をかけて戦えばなんとかなる……かも?
「ヘルメスの考えはよく解ったわ。その上でしょうがないから付き合ってあげる。途中で泣き言いわないでよ?」
「当然。シルフィーこそ駄々こねないでくれよ?」
「承服しかねるわね」
「してください」
冗談を交えてからボスエリアに足を踏み入れた。
その瞬間、中央に鎮座するドラゴンが動き出す。
空から雷と雨が降り注いだ。
天候を操るタイプのボスか。かなり厄介だな……。
翼を広げ、ボスドラゴンが雄叫びを上げる——。
「グルアアアアアア!!」
▼△▼
竜の渓谷のボスと戦闘が始まる。
ドラゴンが翼を広げて空へ飛翔した。
「でたでた。ドラゴン系って卑怯だよね。空飛ぶの」
「私が打ち落としてあげようか?」
「……いや、今回はまず慎重に戦おう。相手のほうが格上だしね」
空を高速で飛び回るボスを見ながら、剣を構えて様子を伺う。
下手にこちらから手を出して攻撃を受けたら困るしね。
「グルアアアア!」
ドラゴンは大きく叫び声をあげると、猛スピードで突っ込んできた。
ドラゴン系モンスターは攻撃パターンが似たりよったりだ。
何度も体験した攻撃。余裕を持って横にかわして剣を振る。
——スパッ!
ボスの皮膚にわずかな傷ができる。
ドラゴンスレイヤーの斬れ味は、ボスの耐久力すら貫通するらしい。
「へぇ……これはすごい」
正直、前の武器なら弾かれていた可能性もある。
それくらいレベルによるステータスの格差ってのは出るものだ。
特に相手はモンスター。
人間とはまた異なるステータスを持っている。
「斬れるってことは殺せそうね」
「シルフィーも俺色に染まってきたねぇ」
考えが俺と一緒だ。
「誰かさんとずっと一緒にいるもの。そりゃあ移るわよ」
「人を病原菌みたいに言わないでほしいな……」
ドラゴンの攻撃をかわしながら反撃を続ける。
シルフィーの言うとおりダメージは稼げていた。
極端な話、このまま回避と反撃を繰り返していけばそのうちボスは勝手に死ぬ。
時間はかかるがそれが一番安全で確実かな?
そう思っていると、まるでこちらの浅はかな考えを読んだかのように、ドラゴンの攻撃パターンが変わった。
魔法みたいに雨粒がドラゴンの手に集まっていく。
垂れていかない。ひとつの水の塊を形成していった。
徐々にドラゴンの拳を水が覆うと、擬似的な爪になる。
どう見たって斬れ味があるようには見えないが……もし魔法のような現象であれば話は別だ。
攻撃範囲を拡張した状態でドラゴンが突っ込んでくる。
念のため大袈裟に相手の攻撃を避けた。
ドラゴンの爪が地面を深々と抉る。
「なにあれ!? ただの水じゃないわね……」
「みたいだね。どうやらここからが本番らしいよ」
どんどん雨の勢いも増していく。
わずかに視界が潰され、状況はドラゴン有利に傾いていった。
———————————
あとがき。
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